2021 Fiscal Year Research-status Report
1970年代から80年代の日本のポピュラー音楽にみるアメリカ文化の影響
Project/Area Number |
19K12509
|
Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
大和田 俊之 慶應義塾大学, 法学部(日吉), 教授 (20365539)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | ブラック・ライヴズ・マター / アジア系 / アフロ・アジア / ポピュラー音楽 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年12月にこれまでのwebちくまでの連載をまとめた『アメリカ音楽の新しい地図』(筑摩書房 pp240+iv)を刊行した。本著は、第34回ミュージック・ペンクラブ音楽賞ポピュラー部門著作出版物賞(一般社団法人ミュージック・ペンクラブ・ジャパン)を受賞した。選評では「ブラック・ライヴズ・マター、ラテン系やアジア系アメリカ人の浮上、ヘイト・クライム、フェミニズム、パンデミックによる活動制限、SNSやサブスクによる音楽視聴環境の変化など」話題の多岐性にも注目していただき、「アメリカのポピュラー音楽のいまを見事に俯瞰して切り取った評論集」と評していただいた。また、松本昇監修、深瀬有希子、常山菜穂子、中垣恒太郎編著『ハーレム・ルネサンス──〈ニュー・ニグロ〉の文化社会批評』(明石書店)には、主として白人による(差別的な)黒人表象として知られ、1880年代以降にヒットしたクーン・ソングと呼ばれるサブジャンルと、アフリカ系アメリカ人による正統的な民俗音楽ブルースとの連続性を論じた「分離される(黒人)音楽──ハーレム・ルネサンス前史」を寄稿した。ハーレム・ルネサンスをめぐっては、それが黒人のエンパワメントとして機能した側面と、黒人のステレオタイプを強化してしまった負の歴史が常に議論されるが、その両義性を音楽の分野で検証する論文である。さらに、第55回アメリカ学会年次大会のシンポジウム『表現の自由と不自由のあいだ』に登壇し、「ペアレンタル・アドバイザリー--アメリカ音楽と検閲」という題目の発表を行った。過激な暴力や性描写への不満として始まったParents Music Resource Center(PMRC)の運動が、ヒップホップの台頭と共にいかに人種的な規制に繋がったか、またPMRCの運動そのものへの反動がいかに性差別的な傾向を有していたかについて問題提起した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の最大のプロジェクトであり、1970年代から80年代にかけて活動した日本の音楽グループ、YMOに関する英文単著についてはすでに正式に契約を締結したが(Bloomsbury社の33 1/3シリーズ)、その原稿執筆が少々予定より遅れている。2021年3月に帰国し、この一年はコロナ禍の日本の大学システムに適応するのに予想以上に時間が取られたのと、やはり国会図書館が通常通りに使えない状況にあることが障害となっている。そうした中、コロンビア大学の音楽学部の学部生・大学院生向けに日本のシティポップの興隆とその再評価運動について講演する機会をいただいたのは有益だった。YMOのメンバー、細野晴臣のアメリカ公演に関するドキュメンタリー映画も公開され、その映画評を執筆する機会もいただいた。海外における日本のポピュラー音楽への関心はますます高まっており、今年度中の刊行を目指したい。
|
Strategy for Future Research Activity |
まずはBloomsbury社の33 1/3シリーズに収録予定の英文単著YMO論の執筆に集中する。校閲者とも連絡をとりながら、早期の刊行を目指したい。その後は、日本の1970年代から80年代のYMO以外の音楽、とりわけシティポップに関する英文論文に取り掛かる予定である。議論の骨子についてはすでにまとめてあり、そのための資料収集も進めている。関係者へのインタビューが必要となってくるが、パンデミックの状況も見極めながら、ひとつひとつこなしていきたい。
|
Causes of Carryover |
コロナ禍により、国際学会の中止、または延期がアナウンスされ、関係施設の訪問や関係者へのインタビューも困難になった。おもに国際学会発表のための渡航費用として確保していた予算の消化が難しくなったが、今年度はパンデミックの収束も期待されるので、関係施設へのアポイントを早めにとりつつ、渡航可能な場所でのアーカイヴ収集などを進めたい。
|