2022 Fiscal Year Research-status Report
パラグアイの初等教育課程におけるバイリンガル教育と国民アイデンティティの基盤形成
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19K12513
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Research Institution | Nanzan University |
Principal Investigator |
牛田 千鶴 南山大学, 外国語学部, 教授 (40319413)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | パラグアイ / バイリンガル教育 / グァラニー語 / 国民アイデンティティ / 複文化国家 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年8月27日~9月11日には、本研究課題での研究期間開始後初となる現地調査を実施した。教育省、言語政策庁、先住民教育局、統計局、米州開発銀行、イベロアメリカ諸国機構等の様々な機関を訪問し、各分野の専門家にバイリンガル教育の実績や課題・問題点等に関し聞き取り調査を行なった。教育省ではカリキュラムや教育評価、教員養成の責任者にインタビューするとともに、貴重な一次資料を入手することができた。言語政策庁でも、19ある先住民共同体でのバイリンガル教育(先住民語+グァラニー語またはスペイン語)の取り組みや直面する課題について、より具体的な情報を得た。教育現場についても、公立・私立・NPO立の計6校(小学校5、幼稚園1)を訪問し、主にグァラニー語教育の授業で参与観察を行なった。また、ラテンアメリカ社会科学研究所の研究者とは、将来的な共同研究の可能性も探ることができ、2週間という短い期間ではあったものの、極めて充実した現地調査を実施できた。 同年12月には、日本ラテンアメリカ学会東日本研究部会(Zoomホスト:上智大学)で「パラグアイにおけるバイリンガル教育の展開と国民アイデンティティの醸成」と題する発表をオンラインで行なった。そこでは、四半世紀余におよぶ同教育の取り組みを通じ、社会的に低位の言語とみなされてきたグアラニー語の復権と、それに基づく国民アイデンティティの再構築がめざされてきたと指摘した。 2023年3月には、『多文化共生研究年報』第20号に「パラグアイにおける教育改革の理念とバイリンガル教育の実践」(pp.37-48/査読有)が掲載された。本拙稿では、パラグアイにおけるバイリンガル教育の理念や目標を振り返りつつ、現地調査で得た知見を踏まえ、公教育の現場が抱える具体的課題について考察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
3年間実施できなかった現地調査を2022年8~9月にようやく実現でき、当初の計画の1年目にあたる部分を4年目にして遂行できた。コロナ禍で現地調査に出かけられなかった間も、オンライン上での文献調査や統計資料の収集等に継続的に取り組んできた上に、2023年度もさらに1年の研究期間の延長が認められたため、なんとか当初の計画通りに研究を進展させていける見通しが立ってきたところである。 研究論文を2022年度末に発表した後は、2023年6月3~4日に開催される日本ラテンアメリカ学会第44回定期大会(会場:明治大学)に向け、パネル「言語文化と国家・民族アイデンティティ」の企画責任者となり、他の登壇者3名および討論者1名とともに準備を進めている状況にある。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年6月4日に日本ラテンアメリカ学会第44回定期大会(会場:明治大学)において、パネル「言語文化と国家・民族アイデンティティ」の責任者を務め、他の3名の登壇者とともに個別の研究成果報告(牛田報告タイトル:「パラグアイにおける二言語教育の展開と複文化国家としての課題」)を行なう予定である。 2023年8~9月には、パラグアイを再訪し、言語政策庁、先住民教育局、ラテンアメリカ社会科学研究所を中心に、専門家への聞き取り調査を実施したいと考えている。可能であれば先住民居住区を訪問し、バイリンガル教育の実践状況について関係者に直接確認できればと期待している。 また、本研究成果を広く現地当事者にも還元するため、スペイン語の論文にまとめ公表できるよう努めたい。
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Causes of Carryover |
コロナ禍の影響により本研究課題の基盤をなす現地調査が実施できなかったため、当初の計画で海外渡航費として計上していた予算を有効活用できないまま3年間が過ぎてしまった。そこで、当初の研究計画の遂行を目的として、2022年に研究期間の延長を申請して認められ、研究計画開始後4年目にしてようやく、初めての現地調査を実施することができた。引き続き当初の研究計画を遂行すべく、2度目の延長申請が認められたため、研究期間最終年度となる2023年度には、前年度8~9月の調査時に構築できた人的ネットワークを基にさらなる現地調査を実施し、次年度使用額を有効活用する計画である。
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