2019 Fiscal Year Research-status Report

カンボジアにおける宗教的実践と民族間関係：ベトナム人とクメール人の共生をめぐって

Research Project

Project/Area Number	19K12523
Research Institution	Tokyo University of Foreign Studies
Principal Investigator	松井生子東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 研究員 (30837597)
Project Period (FY)	2019-04-01 – 2023-03-31
Keywords	カンボジア / ベトナム人 / 民族間関係 / 宗教的実践 / クメール人
Outline of Annual Research Achievements	本研究はカンボジアで対立するものと捉えられがちだったベトナム人とクメール人に関し、現地調査をもとに宗教的実践の場における両者のつながりの形成と他者認識の変容のプロセスを明らかにすることを目的としている。調査対象とするのは、宗教的実践の場でベトナム人とクメール人の交流・協働が見られるカンボジア南東部のメコン河下流域一帯である。初年度にあたる令和元年度は、まず先行研究およびこれまでの自身の研究データを整理し、6月に第13回日本カンボジア研究会にて、カンボジアの国教であり多数派民族であるクメール人が信奉する上座仏教に対するベトナム人の関わり方について、特にこの10年間の調査村の動向に着目して研究報告をおこなった。 8月はカンボジアのプレイ・ヴェン州にて、陰暦7月15日（中元節）を中心としておこなわれるベトナム人の儀礼と、その儀礼の場でのクメール人とベトナム人の相互行為に関するフィールドワークを実施した。農村部においてベトナム人の村人が設けた小規模な寺院でクメール人の上座仏教僧を招いておこなわれた儀礼に参加すると共に、ベトナム人およびクメール人の信徒が集う市場町ネアク・ルアンの大乗仏教寺院の儀礼に参加し、記録、観察をおこなった。また、人々の生活全体の中で宗教的実践を捉えるため、調査期間中、両者の生活状況と日常生活における民族間関係について聞き取りと観察をおこなった。 12月はカンボジアの国立文書館にて文献調査をおこなうと共に、ネアク・ルアンの大乗仏教寺院を日帰りで訪問した。以上のように、令和元年度は調査対象とする農村と市場町にて調査を実施し、文書館で史料およびデータを収集することができた。調査で得られた記録と映像、史料等の分析を進め、次年度以降の研究につなげたい。
Current Status of Research Progress	Current Status of Research Progress 2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned. Reason 4年間の研究期間の初年度として、カンボジア南東部の村と市場町において研究課題に関する調査をおこない、ベトナム人の節日の儀礼を中心に民族間交流のデータを収集することができた。市場町での調査は次年度に実施を計画していたものの、早めに初年度に開始することができた。また、国立文書館でプレイ・ヴェン州の宗教的実践、人々の生活状況、民族間関係に関する資料を探したところ、事前に考えていた以上に当該地域のベトナム人に関するフランス植民地時代の史料が存在することがわかった。初年度の成果としては、研究実績の概要で述べたように研究報告を1回おこなったほか、論文を収録した書籍が一冊刊行された。当該論文では調査村においてベトナム人の村人とクメール人の村人が形成するローカルな公共性の可能性をミャンマーと比較しながら論じている。本研究課題で取り上げる宗教的実践の場における相互行為も、その公共性の形成に資するものとなっている。
Strategy for Future Research Activity	令和２年度はカンボジアでのフィールドワークとフランスでの文献調査を計画し、さらに研究会等で中間報告をおこなっていく予定だった。しかし新型コロナウィルスの感染拡大により、カンボジアにおける入国制限、日本への入国の際の検疫の強化により、現時点では調査を実施することが難しい状況となっている。さらにフランスはヨーロッパ連合の入境閉鎖により、この報告書を作成している時点で全く渡航の目途が立たない。カンボジアへの渡航が可能になった場合は速やかに現地調査の実施をめざすが、調査および研究会等での発表が困難な場合は、昨年度カンボジアの国立文書館で入手した資料の分析と、論文の執筆に注力したい。
Causes of Carryover	令和元年度の主な支出はカンボジアでの現地調査および国内学会参加のための旅費、調査に携行するための軽量のノートパソコンであった。ほかに複写文書保存のためのスキャナ、パソコン周辺機器（USBハブ等）、バインダーなどの消耗品に助成金を使用し、996円が残った。少額ではあるが次年度に繰り越し、令和2年度に計画したカンボジアでのフィールドワークとフランスでの文献調査、消耗品の購入に充てたいと考えた。