2021 Fiscal Year Research-status Report

カンボジアにおける宗教的実践と民族間関係：ベトナム人とクメール人の共生をめぐって

Research Project

Project/Area Number	19K12523
Research Institution	Japan Women's University
Principal Investigator	松井生子日本女子大学, 人間社会学部, 研究員 (30837597)
Project Period (FY)	2019-04-01 – 2023-03-31
Keywords	宗教的実践 / 民族間関係 / カンボジア / ベトナム人 / 多文化共生
Outline of Annual Research Achievements	4年間の研究期間の3年目にあたる2021年度も、前年度と同様に新型コロナウィルス感染症の流行により国外での現地調査ができない状況が続いた。このため2019年度までに入手済の調査データおよびカンボジアの国立文書館の史料の分析を進めると共に、日本国内およびオンラインで入手可能な資料について調査・収集をおこなった。カンボジアの国立文書館の史料では、当時ベトナム人が多く住んでいた地域の社会・経済的状況についての情報を得ることができたほか、ベトナムの新興宗教がカンボジアのベトナム人とクメール人から熱狂的な支持を受けるなど、宗教的実践面で越境的な状況があったことが明らかになった。研究成果の発表に関しては、出版が予定されている英語の論集のための初稿を執筆し提出した。今後、国際ワークショップにて発表をおこない、コメント等をふまえて原稿の加筆・修正をおこなう。また、カンボジア特集研究会にて、ベトナム人の事例を通してカンボジアの国籍／市民権について考察する発表をおこなった。この発表内容も論文としてまとめる予定である。現地調査が実施できず、宗教的実践と民族間関係に正面から取り組んだ研究成果には至っていないが、文献を中心に本テーマに関する考察を深め、カンボジアのベトナム人に関し論文執筆と研究発表をおこなうことで研究基盤を固めた年度であった。
Current Status of Research Progress	Current Status of Research Progress 4: Progress in research has been delayed. Reason 本研究は現地調査をもとに、カンボジアの宗教的実践の場におけるクメール人とベトナム人のつながりの形成と他者認識の変容のプロセスを明らかにすることを目的としている。しかし研究期間のうち既に2年間現地調査を実施できていないことから、全体的に遅れが生じていると言わざるをえない。次年度の研究の進展のために、入手済のデータと文献の分析、書籍のための論文執筆、発表をおこなった研究会での議論を通して、今後の課題を明確にすることを心掛けた。
Strategy for Future Research Activity	2022年度はカンボジアでのフィールドワークおよびフランスでの文献調査と、論文等での研究成果の公表を主眼に置く。6月は国際ワークショップでの研究発表を予定している。カンボジアでは2022年春に入国制限が大幅に緩和され、日本でもカンボジアが水際対策措置に係る指定国から解除されたことで、渡航を検討しやすくなった。カンボジアで調査が再開できた場合は、プレイ・ヴェン州にてこれまでの調査村と市場街ネアク・ルアンでのフィールドワークを実施する。調査村では上座仏教儀礼へのベトナム人の参加について、ネアク・ルアンでは大乗仏教寺院の儀礼へのクメール人の参加について聞き取りと参与観察をおこないたい。また、可能であれば国立文書館にて新たに資料を収集したい。一方、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻の影響で、ヨーロッパ行きの飛行機の運行状況に影響が出ているため、フランスでの文献調査は最新の情報を踏まえながら渡航時期を判断する。
Causes of Carryover	2021年度は国外での現地調査を期し、日本国内における支出を必要最小限にとどめたが、結果として渡航ができず、次年度への大幅な繰り越しが生じた。2021年度の主な支出は、インクジェット・プリンタ、プリンタ用カートリッジ、ファイル等の物品と書籍の購入である。未使用額は次年度に繰り越し、旅費、論文の英文校閲費、関連書籍およびファイル等消耗品の購入に使用する。2022年度は国外での調査、国内での対面の研究会への参加に伴う旅費の支出を見込んでいるが、国外の調査に関しては航空運賃の値上げのほか、円安傾向が続くと見られ、相応の費用を要することが予想される。
Remarks	研究発表：「カンボジアの国籍関連法と実践に見る1990年代以降の変化：ベトナム人との関わりを中心に」カンボジア特集研究会（「体制移行」の比較解剖学：グローバリズム下の社会レジーム再編に関する総合的研究, 19H00559, 2019-2023年度, 代表：小林知）2022年3月2日、オンライン開催.