2022 Fiscal Year Research-status Report
カンボジアにおける宗教的実践と民族間関係:ベトナム人とクメール人の共生をめぐって
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19K12523
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Research Institution | Japan Women's University |
Principal Investigator |
松井 生子 日本女子大学, 人間社会学部, 研究員 (30837597)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 宗教的実践 / 民族間関係 / カンボジア / ベトナム人 / 多文化共生 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度はカンボジアの入国制限と日本の水際対策が緩和され、2020年度から中断していた現地調査を再開することができた。8月と12月にカンボジアに渡航し、フィールドワークと文献調査を実施した。 8月の渡航は、陰暦7月15日(中元節)におこなわれる大乗仏教寺院の祭礼時のベトナム人とクメール人の相互行為を記録、観察することを主目的としていた。しかし現地で新型コロナウィルスに感染して体調不良となり、陽性が判明した後はカンボジア保健省の係官の指示によりホテルで自己隔離することになった。このため、思うような成果が得られなかったが、2019年12月の調査以来、訪問できなかった調査村の人々の現在の生活状況、災禍をこえて再びつながりをつくり出す姿を見ることができたのは、本研究課題の遂行にあたって、意義のあることだった 12月に再び渡航した際は、感染症流行時の仏教儀礼と人々の関係構築に関し、聞き取り調査を実施した。調査村での聞き取りによると、感染者が増加した2020年から2021年にかけて、人々が多く集う儀礼が禁止され、人々の交流が制限されてきた。2022年は平時と同じ儀礼実施および参加が可能となり、村人の生活は平穏を取り戻しつつあった。短い調査期間であったが、感染症流行時の困難な状況と人々の側の対応を確認すると共に、現在の状況の詳細を把握することができた。また、プノンペンの国立文書館で官報を閲覧し、論文に用いる資料を確認した。 研究成果の公表に関しては、6月に名古屋大学法政国際教育協力研究センター(CALE)とメルボルン大学法学部(MLS)共催の国際ワークショップで、カンボジアのベトナム人の無国籍の状況について英語で報告をおこなった。また、出版計画が進行中の2つの本のために、それぞれ、カンボジアのベトナム人に関する論考を執筆した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウィルス感染症の流行により、2020年度と2021年度に海外での現地調査が実施できず、研究に遅滞が生じることとなった。今年度、念願の現地調査を再開することができたが、8月は調査者自身の新型コロナウィルスの感染で調査規模を縮小せざるをえなかった。 大学の冬季休暇中はフランスの国立海外文書館で調査をおこなうことを計画したが、12月21日から1月2日まで閉館で予定と合わず、代わりにカンボジアに渡航し調査を実施した。この時は参与観察が可能な仏教儀礼等がなかったため、聞き取りを中心に調査を進めた。 これらの調査により、一定の成果を上げることができたが、カンボジアでの調査期間が短く、さらにフランスで調査ができなかったため、予定していた調査内容を網羅することができなかった。このことから、研究期間の1年間の延長を申請することになった。
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Strategy for Future Research Activity |
本課題を1年延長して研究活動をおこなう2023年度は、これまで実現できなかった、カンボジア最大の仏教儀礼であるプチュム・バン儀礼の参与観察をおこない、感染症流行を経た後のベトナム人とクメール人の交流の様相を記録し、考察を加えることを計画している。儀礼に合わせて渡航できない場合は、別日程で、調査村の人々の儀礼と、儀礼の場で構築される民族間の関係について聞き取り調査を実施する。フランスへの渡航が可能であれば、国立海外文書館にて、フランス植民地期のカンボジアの宗教的実践に関する史料の調査・収集をおこなう。 最終年度となる次年度は、成果の一環として、カンボジアのベトナム人に関する章を執筆した2冊の書籍が出版予定である。書籍のための最終稿を完成させると共に、別途、論文、研究会等での発表をおこなっていく。
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Causes of Carryover |
フィールドワークを前提とした研究課題であったが、新型コロナウィルスの流行で国外に渡航できない期間が続き、2020年度と2021年度に大幅な繰り越しが生じた。本年度は、主にカンボジアへの渡航、調査に必要な機器類への支出をおこない、残額は次年度にカンボジアまたはフランスで調査をおこなう際の渡航費、文献購入、史料複写等に充てることとした。
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Remarks |
MATSUI Naruko."Living in Cambodia as Stateless Vietnamese: A Case Study of a Village in the Lower Mekong Basin" CALE-MLS Workshop,Nagoya University Center for Asian Legal Exchange. 2022年.
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