2020 Fiscal Year Research-status Report
Socio-cultural interaction in the U.S.-Mexico border region including the Pacific Ocean and the Gulf of Mexico
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19K12531
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
水谷 裕佳 上智大学, グローバル教育センター, 准教授 (90568453)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 境界 / 国境 / 米国 / メキシコ / ハワイ |
Outline of Annual Research Achievements |
新型コロナウイルス感染症の流行が収束せず、国外への渡航が難しい状況が続いたことから、海外における調査は実施できなかった。そのため、入手できる資料の質や量に制限があったものの、日本国内で文献調査を中心とする研究活動を実施した。その結果として本研究課題に関連する内容の論文と書評を発表し、オンラインの講演会でも研究成果の一部を発表した。具体的な内容は以下の通りである。
(1)論文「ハワイにおける海と陸の境界域の諸相―ワイキキ地区の自然環境、サーフィン、ホームレス問題を通じた考察」において、ハワイの内部における地理的境界に関する事象を考察した。また、これまでハワイに関する研究は、境界研究の分野ではあまり取り上げられてこなかったが、その成果が、米国領土を取り巻く境界地域、ひいては世界の境界地域に関する学術的な議論の深化に寄与できる可能性を示した。(2)John S. Sledge著The Gulf of Mexico: A Maritime History(University of South Carolina Press, 2019)の書評において、米国メキシコ国境地域の一部を構成するメキシコ湾の歴史、文化、社会に関する内容を日本語で解説した。(3)上智大学イベロアメリカ研究所レクチャーシリーズ「ラテンアメリカにおける先住民の暮らしから学ぶ―コロナ禍以降の世界をいかにして作るか―」の一部として、「先住民族を取り巻く世界の動きとコロナ禍における米国メキシコ国境地域の先住民族」という研究発表を行った。新型コロナウイルスの感染拡大は、新たな問題を引き起こしたというよりも、既存の問題を顕在化させたという議論はよく見受けられる。米国メキシコ国境地域の状況についてもそれは同様であり、米国メキシコ国境地域の複雑な歴史的経緯を背景とした社会問題や環境問題などが、同地域の内外により明確に示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウイルス感染症の流行がいつ収束し、海外での現地調査が可能となるのか分からない状況が続いた。上の欄に示した通り、日本国内からアクセスできるデータベースの資料を使ったり、先行研究に関する考察を行ったりするだけでも一定の研究成果を挙げることはできた。そのため、(4)の「遅れている」という状況ではないと思われる。しかし、非営利団体や先住民族関連団体への聞き取り調査や、図書館や資料館におけるデジタル化されていない一次資料の収集等、現地を訪問せずに進めることが難しい作業も多く、計画が遅れていることは確かであることから、(3)を選んだ。
年度の前半には、年度の終わりまでに海外への渡航が可能となることを願いながら研究を進めていたが、仮に日本国内での新型コロナウイルス感染症の流行がある程度収まったとしても、本研究課題申請時に想定していた形で海外での調査が実施できるようになるまでには、さらに長い時間が掛かるのではないかと思うようになった。そこで、年度の後半には、研究課題に関連する文献を想定していたよりもやや広い範囲で収集し、研究計画の再検討を開始した。本研究の最も中心的な課題は、(1)米国メキシコ国境地域に関する事項を、地理的に限定的な議論に留めるのではなく、より広い視点で考察する方法を探る、(2)米国領を取り巻く海域や島嶼部にまで視野を広げ、陸上に引かれた国境を中心に展開されてきた境界地域の議論で見落とされてきた課題を発見する、という2点に集約される。これらの2点に関する考察を直接的、もしくは間接的に進めるためには、(1)インターネット上に公開されている資料を引き続き収集し、考察する、(2)本研究の中心的な課題に寄与し得る、日本国内も含む他地域の事例を分析し、境界研究分野における学術的な議論に貢献する、という2つの作業を並行して進めることが必要であるという結論に至った。
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Strategy for Future Research Activity |
先の部分において、今後の研究では、(1)インターネットを使って収集できる資料の収集と、(2)米国メキシコ国境地域以外の事例を探すことの2つを並行して行うと述べた。(1)に関しては、昨年度までにどの図書館や資料館がデータベースを公開しているかはある程度把握できた上、年度が変わった直後にオンラインで開催された国際学会に出席して情報収集を開始した。(2)が、研究計画の変更に該当する内容となる。(2)について考える上で最も参考になったのは、年度の終わりに収集した先行文献の1つであるDaniel Immerwahr著How to Hide an Empire: A History of the Greater United States(Picador, 2019)であった。この本では、ハワイ、プエルトリコ、フィリピン、ビキニ環礁など、現在米国の地理的周縁地域である、もしくは過去にそうであった諸地域の歴史を比較しながら、米国の中心部と周縁地域の関係性や、その背景にある植民地主義的な思想について論じている。本研究課題の申請書にはハワイを含めて考察すると書いたが、上記の研究は、米国の境界地域をさらに広い視点から論じている上、過去の事例も含めて考察している。すでに上記の本が出版され、米国内の関連した研究が類似した方向に向かっていることを考慮すると、本研究は(1)関連する諸研究の全体的な動向についてまとめる、(2)日本国内の事例や、これまでに発表された研究で取り上げられていない国や地域の事例を通じて、学術的な議論に貢献できる可能性を探る、という方法をとることが好ましいように見える。もしも年度の途中に海外に渡航できる状況となった場合には、申請書では取り上げなかった国や地域も含めて、現地調査の可能性を探りたい。国内の他地域に位置する研究機関や図書館での資料収集も、併せて検討する。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症による海外渡航制限のため、旅費を使うことができなかったため、次年度使用額が生じた。海外での現地調査が実施できる状況になった後に、現地調査の旅費として利用する予定である。加えて、海外への渡航制限が長期化すると判断した場合には、国内での調査に切り替えて利用する予定である。
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