2020 Fiscal Year Research-status Report
ケニア・サンブル社会におけるジェンダー役割の変容と女性自助グループの可能性
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19K12533
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Research Institution | Toyo University |
Principal Investigator |
中村 香子 東洋大学, 国際学部, 准教授 (60467420)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 女性のライフコースの変化 / 女性の家畜所有権 / マイクロクレジット / 年齢体系の変容 |
Outline of Annual Research Achievements |
アフリカにおいて「ジェンダー平等の実現」を目指す取り組みは、近年、その勢いを増して強力に推進されている。本研究は、ケニアに居住するマサイ系牧畜民サンブルの社会を事例に、いわゆる「伝統的」な規範をつよく維持する社会において、女性の地位がいかに変化しているのかを実証的に明らかにすることを目的としている。サンブル社会は年齢体系とよばれるシステムを強く維持しているが、このシステムにおいては、性と年令によって人びとを明確にカテゴリー分けし、それぞれに社会的な役割や規範を規定している。すなわち、性別間、年齢間の「不平等」が社会規範として埋め込まれてきたと言える。 調査対象地域では、学校教育と現金経済がこの20年で急速に普及した。本研究では、こうした状況下で急激に活発化している女性自助グループの活動に注目しながら、活動がもたらす女性の現金収入や家畜所有の実態、新たな社会関係の構築過程の解明を試みている。これまでのところ、調査対象地域の女性グループ20の成立、活動内容、メンバーの調査を実施してきた。また、2019年度には、年齢体系にとって重要な儀礼で役15年に1度実施される年齢組の更新儀礼の参与観察をおこなった。年齢体系は、東アフリカの諸社会で多くみられるが、ほとんどの社会では消滅したか形骸化していることが報告されているが、サンブルでは現在でもつよく維持されている。シモンズと栗本(Simonse & Kurimoto 1998)は、年令体系の消滅に関与する現代的な要素として、代替の人生の段階と区切りを与える近代教育、あらたな権威の基準を創出して長老の地位をおびやかす資本主義、そして、年令体系を維持するための儀礼を禁止する国家の三つをあげている。社会における年齢体系の重要性を維持しながら女性の地位を向上させることの可能性/不可能性を考察中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでに、サンブル郡(カウンティ)内で活動している約20の女性自助グループについて、各グループの設立年と設立の経緯、政府登録の有無、メンバーシップと役職者、グループの活動内容(「テーブル・バンキング」、共同菜園、ビーズ製の装身具を製作・販売、家畜預金、選挙候補者のキャンペーン支援、など)、また、活動の詳細、政府やNGOなどの外部団体からの支援の状況、活動の成功事例・失敗事例などについての情報を収集してきた。 また、主要なメンバーの属性、①夫の年齢組(世代)、②女性と夫の所属クラン、③両者の学校教育レベル、④両者の宗教、⑤両者の開発プロジェクトへの関与経験、⑥居住地域、⑦世帯の生業の複合状態、③配偶者選択のプロセスと結婚の形態〔許嫁婚(強制婚)・連れ去り婚・恋愛結婚など〕についても聞き取りを完了している。 2020年度はさらにデータ数を増やして同様の調査を継続する予定であったが、コロナによって渡航を延期したが、これまで集まったデータ数が少なくないことから、先行して分析を開始し、ひとりの女性のライフヒストリーを軸にした論文にまとめた(「『未婚』『非婚』そして『結婚』―サンブル女性の自律と出自集団への帰属」)。 また、2019年度には、年齢組の更新儀礼を観察する幸運に恵まれたため、この観察結果を先行研究と比較しながら年齢組の変容動態についても過去50年に遡って明らかにすることが可能となった。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は現地調査を再開したいと考えているが、コロナ収束の見込みはまだたっていない。このため、リモートでの聞き取りの実現に向けて環境のセットアップを実施する予定である。現地の調査助手とスマートフォンでつなぎ、インタビューを継続したい。この実現のためには、専門の業者に機器の準備とその利用法を調査助手に教示することを依頼する必要がある。 インタビューの具体的な内容としては、これまで調査を実施してきた女性たちのうちから小規模ビジネスを継続している人を選び、あらためてインタビューを実施する。すでに一度インタビューを実施している相手であることから、リモートでのインタビューも比較的実現可能性が高いのではないかと考えている。聞き取りの主たる内容は、ビジネスを行うことによって、世帯内の家事の分担、牧畜業や農業の分担はどのように変化したか、どのような種類のビジネスを行い、どのぐらいの収入があり、これまでに収入を何に使途してきたか、この収入で家畜を購入したことがあるか、そのときの家畜の所有権はどのようだったか、ビジネスの継続に対して夫の協力は得られているか、などである。夫がいる女性については、夫にも男性の立場からの意見を聞き取る。また、家族構成についてもあらためて変化はないか確認し、以前の聞き取りデータを更新する。 加えて、先行研究を網羅的にあたりながら、アフリカの他の社会における女性グループの活動との比較・分析を開始する。
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Causes of Carryover |
コロナウィルス感染拡大により現地調査の実施が延期されたため次年度使用額が生じた。状況が改善されれば、延期した現地調査を実施する。改善されなければ、リモートでの聞き取り調査を実施し、謝金として執行する計画である。
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Research Products
(5 results)