2019 Fiscal Year Research-status Report
The New Regionalism in France : Developing a Transborder Coexistence and Coprosperity Model
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19K12538
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Research Institution | Ferris University |
Principal Investigator |
上原 良子 フェリス女学院大学, 国際交流学部, 教授 (90310549)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | フランス / 国境 / ボーダー / 地域主義 / 地域圏 / バスク / オクシタニー |
Outline of Annual Research Achievements |
第一年目にあたり、主に各論点の研究文献の収集、分析、さらに関連領域の研究の把握に努めた。 ①フランス領バスク-国家-地域関係に大きな変化が生じている。永年フランス領のバスク地域は、「県」の境界により分断され、行政単位としては認識されてこなかった。しかし多様な改革により、「Le Pays Basque(バスク国)」の境界、名称が尊重されるようになっている。これは地方分権とともに、従来19世紀末以来、国民統合/国家としての一体化を進めてきたフランス政府の方針転換、とりわけ地域の多様性の尊重と和解と位置づけ、分析を試みた。 ②南仏のオクシタニーの歴史的展開-その中心的思想家 Robert LAFONT の著作を中心に分析を進めた。60年代の地域主義の思想、運動の展開、また地域の独自性に特化したローカル経済の発展、さらにオクシタニー内部の多様性に注目して、今日に至る展開を明らかにした。 ③2016年地域圏改革における「オクシタニー圏」の登場-バスクと同じく、近年の行政改革において、地域のアイデンティティを重視する名称が使用されるようになった。改革当初「ラングドック=ルシオン=ミディ=ピレネー圏」と呼ばれていたが、特に首府トゥールーズを中心に「レジオン・オクシタニー」の名称を名乗ることを要求し、政府もこれを承認した。オック語地域の名称オクシタニーが行政上の名称となったことは中央-地方関係において画期的であった。とはいえ、オック語地域ではない他の地域からは反対の声もあり、地域内部における多様性も浮き彫りになった。 ④北東アジアとの国際比較-北東アジアの国境地域の調査を行い、ヨーロッパとの比較を試みた。特に北海道の島嶼部、また奄美群島との比較を試みることにより、内海の国際政治の特質を考察し、シンポジウムで議論した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の目標である研究動向の把握については、新型コロナ感染防止対策により一部実施中止となったものの、新しい論点の開拓、また国際比較等を新たに設定・変更することによりこれを補完した。 まず新型コロナウイルスの蔓延による渡航禁止により、3月に予定していたバスクおよび南仏出張が中止となったため、現地調査が実行できず、資料収集が遅れている。一方、新たに収集した史料・研究書・WEB上の公刊資料を通じて、バスクの行政改革およびオクシタニー地域圏の再編・名称変更、またオック語圏の地域文化振興運動の広がり等、新たな論点を展開することもできた。 その他、現地調査が中止となったため、代替策として北東アジアの国境地帯の地域主義との比較を深め、内海の国際政治という新たな論点について議論を行うことにより、新たな研究の論点・方向性の解明に着手した。国際比較を行うことにより、このようなヨーロッパの事例の政治的歴史的位置づけを明確にすることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
①現地調査による一時史料の収集-当初の予定を変更し調査の期間延長、回数増加により、この遅延を取り戻すことを予定している。予定としては夏季にパリおよびリールに、また春季にエクス・アン・プロヴァンスおよびマルセイユ、バスクにおいて文書館、図書館、関係諸機関の調査を予定している。リールについては都市開発と交通政策について、南仏についてはオクシタニー運動の展開について、バスクに関しては80年代以降の地域主義運動および行政改革について、それぞれ史料収集、現地調査を実施する予定である。 ②基礎的分析-昨年度抽出した論点について、一時史料も活用し、詳細なプロセスの分析を行う。当時の刊行資料(一次史料)、関連する研究書、特に当時の地方新聞・雑誌を刊行元のWEBアーカイブ、および図書館等のマイクロフィルム、デジタルアーカイブの分析を行う。 ③思想史・運動史の比重増加-新型コロナウイルスの蔓延状況次第では、現地調査が制限される可能性もあるため、予め、日本で研究可能な思想史・運動史の分析の比率を高める。 ④国境地帯の地域主義・地域アイデンティティについての国際比較-代替策として、国際比較も強化する。北海道大学スラブ・ユーラシア研究所のプログラムと連携し、ヨーロッパの事例と北東アジアの事例の比較・分析を実施する。これにより、ヨーロッパの地域主義の特質を明確にすることが可能となる。
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Causes of Carryover |
①理由-ヨーロッパにおける新型コロナウイルス蔓延による渡航禁止により、3月に予定していた、フランス国バスク地域および南仏旧オック語圏(オクシタニー地方)諸都市の現地調査が延期となったため。また1年目の研究から、新たな論点を開拓し、これについての史料調査を追加することが必要となったため。 ②使用計画-2019年度に未実施の調査とあわせて二回の海外出張を予定している。夏季は、パリおよびリールでの現地調査を実施し、国立文書館、地方文書館および現地図書館、新聞社資料室等の史料を収集する。春期(3月)の調査では、主に南仏を中心に、バスク地方の地域主義運動および旧オック語圏の諸都市におけるオクシタニー運動の史料を、現地図書館・文書館で収集する。 ③代替策-仮に新型コロナウイルス感染拡大防止対策の継続状況等により渡航困難な場合には、日本で研究可能な既存の刊行文献(Robert LAFONT等の著作)、およびWEB上で公開されている行政文書、データベース等により、昨年度抽出した論点のより精緻な分析・整理を行う。また来年度に計画していた研究の前倒しでの着手、およびWEBで対応可能な論点への変更(EUの地域政策等)も検討している。さらに北東アジアの国境地帯との国際比較について北海道大学スラブ・ユーラシア研究所の研究グループとの連携・現地調査も含めて、協力を求めることも計画している。
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[Book] フランスと世界2019
Author(s)
渡邊啓貴・上原良子編著
Total Pages
260
Publisher
法律文化社
ISBN
978-4-589-04034-3
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