2020 Fiscal Year Research-status Report
The New Regionalism in France : Developing a Transborder Coexistence and Coprosperity Model
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19K12538
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Research Institution | Ferris University |
Principal Investigator |
上原 良子 フェリス女学院大学, 国際交流学部, 教授 (90310549)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 境界 / ボーダー / 辺境 / インド太平洋戦略 / 先端産業 / 航空機産業 / 港湾 / 地域アイデンティティ |
Outline of Annual Research Achievements |
①「フランス・ダッソー社の独自路線:国家・安全保障・グローバルマーケット」-辺境地域における産業育成とその影響について、航空機産業のダッソー社の事例を通じて考察した。戦間期、戦後復興、経済成長、冷戦の崩壊等の歴史的展開と、今日の戦略等を分析した。これにより地方における先端産業の育成が、従来周辺として低位に置かれてきた辺境地域における雇用、大学・研究所・製造業が連動する産業クラスターの形成、さらに高度な知的産業の育成を可能としたことを明らかにした。またフランスの国家戦略とも連動し、自律的な安全保障政策の確立を支え、輸出振興策の要として主要な輸出産業として機能することにより、ボーダー周辺の産業がグローバルな市場に展開する構図を明らかにした。 ②「フランスのインド太平洋戦略」-中国および東アジアの経済成長に伴い、フランスの対外政策が大きく転換し、その結果フランスのボーダー/境界線の認識とアイデンティティが変容していることを解明した。2019年を中心にフランスのみならず、イギリス、ドイツ、EUがあいついで「インド太平洋戦略」を打ち出し、アジアシフトが鮮明となっている。従来フランスの自己イメージとボーダーは、ヨーロッパ大陸の「本土」が中心であったが、この戦略により南太平洋およびインド洋の領土の重要な構成要素であることが認識され、今後成長するアジア経済への足がかりとして期待されている。またインド・太平洋における国境線の存在により、フランスは世界第二位のEEZを有する国であることが再確認されるに至り、近年では「太平洋国家フランス」という新しいナショナル・アイデンティティも登場していることを明らかにした。 ③南仏のオクシタニー運動の中心的存在であった、ロベール・ラフォンの言論活動および運動に注目し、出版物を通じて、その思想の分析を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初予定していた辺境地域の地域主義についての現地調査が困難となったため、これを延期した。また国際関係の急速な変化に伴い、研究テーマをとりまく状況が大きく変容したため、本研究課題の方向性および論点も変更した。 今年度は、(1)日本において出版物の分析(オクシタニーおよびバスクの地域主義)を進め、(2)新たに二つの論点も追加した。 新たな論点①辺境地域と先端産業-南仏に多くの生産拠点が点在する航空機産業に着目し、社史およびフランスの産業政策史、輸出戦略といった従来のナショナルなレベルの分析に加え、辺境地域における産業育成といった新たな論点に着手した。その成果として、日本国際政治学会における部会報告を行った。 新たな論点②フランスのインド・太平洋戦略-フランス政府は2019年以降、アジアシフトを強めており、対外政策全般を大きく変更した。この新しい外交政策の転換に伴い、本研究テーマであるフランスのボーダーの認識とアイデンティティが、急速に変容しているため、急遽これを新たな研究課題として取り上げることとした。この論点は、日本の対外政策決定においても、同じ価値を共有するパートナー国の分析として政治的社会的ニーズを有するものであり、社会貢献という意味も持つ。研究成果として国際関係のシンクタンクの紀要に執筆した。
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Strategy for Future Research Activity |
前述のように、現地調査の実施が困難であることに加え、国際関係の変容に伴い、本研究のテーマは新たな重要性を持つようになり、国際社会の課題解決のために、社会に発信することが求められている。そのため研究の論点および手法を変更することとした。 ①ボーダーと地域主義研究(バスクおよびオクシタニー)-フランスでの資料調査は困難であることが予測されるので、出版物の分析を中心とする。秋に研究会で報告予定。 ②辺境地域における先端産業の育成-前年度にダッソー社の社史を分析したため、今年度はダッソーに加え南仏に多くの拠点を持つエアバス社も分析対象とし、地域振興という観点から分析する。これにより、地域の雇用、高度人材の育成、大学・地元中小企業・研究所等との産業クラスターの形成、さらに輸出政策を通じた辺境経済がボーダーを超えて、グローバルな展開に至る点等、開放的なボーダーと経済のあり方についても分析を実施する。論文、書籍の執筆を予定している。 ③インド・太平洋戦略-引き続き、フランス政府の対外政策・当該地域への政策を分析する。特に、フランスは東アジアにおける国境問題と、自由で開放的な海洋のあり方を提唱しているため、このボーダーと海洋をめぐる問題について2021年6月に研究報告および論文執筆を予定している。 これと関連してボーダーと物流、特に港湾とネットワークの開発に着目する。中国を中心とするアジアの経済成長に伴い、フランスは地中海沿岸部の港湾とアジアとの物流ルートの確立にこれまで以上に尽力している。マルセイユに本拠地を移転した世界トップクラスのコンテナ・物流企業CMA-CGMの分析を通じて、ヨーロッパ-東アジア間の物流ネットワークおよび港湾の比較、また港湾・物流戦略の日欧比較を通じて、開かれたボーダーと、中国を中心とする東アジアとのネットワークの変容に着目する。2021年6月に研究報告を開催予定。
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Causes of Carryover |
2020年度は、出張を中止したため、旅費を支出せず、その分次年度使用が生じた。理由としては、調査予定地(フランス)および日本における新型コロナウイルス蔓延により、緊急事態および行動制限が厳しく、海外への渡航・現地調査を中止したからである。また学会等国内調査もオンラインでの実施により、国内旅費も支出しなかった。そのため、今年度は、日本で実行可能な出版物およびWEBで入手可能な資料の分析を実施した。 今後の使用計画としては、日本で研究遂行可能な手法に切り替え、出版物の購入、日欧比較として国内の調査、国内の図書館(特に北海道大学等を予定)での文献収集を実施する予定である。 また新型コロナウイルスの動向により、フランスおよびヨーロッパでの調査を実施するために、研究期間の延長も計画している。
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