2021 Fiscal Year Research-status Report
The New Regionalism in France : Developing a Transborder Coexistence and Coprosperity Model
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19K12538
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Research Institution | Ferris University |
Principal Investigator |
上原 良子 フェリス女学院大学, 国際交流学部, 教授 (90310549)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | フランス / ヨーロッパ / 国境 / 地域主義 / ボーダー / インド太平洋 / オクシタニー / バスク |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は論点および手法を拡大し、フランスにおける国境/ボーダー、および辺境地域の歴史研究および現状分析を行った。 ①地域主義意識が高まった1960年代から1970年代について、主にオクシタニー運動やバスク等のフランスの民族主義運動について出版物・研究書を中心に分析を進めた。運動のリーダーレベルの研究(Robert Lofont等)に加え、左派を中心とする既成政党との関係、また第三世界主義等植民地独立運動や欧州連邦主義運動等、地域主義以外の初アクターとの関係性を明らかにした。こうした地域における政治・経済の変容が、その後のフランスの地方分権政策や、ヨーロッパ統合における地域ディメンションの展開(格差解消、文化政策、地域・自治体との連携)に寄与したことを明らかにした。 ②辺境地域における地域経済の影響に着目した。地域経済については、従来格差や貧困のみが強調されてきた。しかしトゥールーズやボルドー等における航空機産業の地方展開に伴い、ヨーロッパレベルでの高度な産業拠点が形成され、地域の活性化にインパクトを与えたことを明らかにした。 ③フランス外交が現在取り組んでいるインド太平洋戦略に伴う国境/ボーダー意識の変容について、成立過程、具体的政策、その問題点の分析に加え、歴史も含めた中長期的な視点からその意味について考察を加えた。これまで軽視されがちであった太平洋の海外領の重要性が高まり、国境/ボーダーの意識がヨーロッパの本土中心の「六角形のフランス(本土)」から、太平洋における海外領土および海洋へと大きく変化した。ヨーロッパ中心主義から、「センター」としてのアジア、「辺境化」するヨーロッパという大転換も指摘できる。その結果、世界第二位のEEZを有する海洋国家という認識や、さらに政府主導で「インド太平洋国家」という新しいナショナル・アイデンティティも生み出されている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新型コロナウイルスの蔓延により、計画の変更を余儀なくされたが、新たな論点・手法を加えることにより、おおむね順調に進展している。フランスの現地調査が中止となったため、現地での資料収集、現地調査が実行できなかったが、これを補完する論点・アプローチに着手し、より統合的な分析を進めることができた。 ①地域主義の研究については入手可能な文献の整理・分析を中心に行った。また個人研究に加え、政党政治や植民地独立運動、またヨーロッパ統合との関連も視野に入れ、より多層的な分析を行った。現地の文書が利用できないことから実証性には欠けるが、運動にとどまらず、政党政治、行政、またヨーロッパ統合との接合も進めた。研究会でその成果を発表した。 ②辺境地域における経済振興の問題にも新たに取り組んだ。先端産業としての航空機産業に着目し、産業拠点の分散・形成により、高度な人材の育成、ヨーロッパレベルの先端地域への育成等を分析し、辺境地域=経済的停滞、という図式の修正を試み、地域経済の可能性を提示した。これについては、2022年5月刊行予定の一般雑誌に論文を掲載予定であり、一般への本研究課題で得られた知見の提供を目指している。 ③現状分析も組み入れ、現在フランス政府が推進している「インド太平洋戦略」の分析にも着手した。その成立過程、具体的政策、また国際関係への影響に加え、2021年に発生したオーストラリアとの潜水艦問題による政策の変更等も明らかにした。歴史研究における国境/ボーダーと、現状との比較を行うことにより、より中長期的な視点から、本研究課題の目標とする国境/ボーダーの変容、地域意識の変化、さらにフランスのナショナル・アイデンティティの変容まで解明することができた。この点については、研究会での発表・講演、および論文等の執筆を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も新しい分析手法の導入、多様な論点からの複合的な分析、さらに、歴史にとどまらず、現状分析との交錯により、より学際的な分析を進める予定である。 2022年度は最終年度であるため、これまで実施できなかった現地調査を8月に実施することを予定している。しかし、訪問予定であるフランスの新型コロナウイルスの感染状況が不確かであるため、現地の事情に対応して研究の延長も検討している。 ①時期の拡大-1960年代~1970年代の歴史研究に加え、現状も視野に入れて分析時期を拡大する。これにより、より中長期的な視野から、国境/ボーダーの変容、さらに辺境の地域をめぐる国家の対応の変化(21世紀に実現した地域行政の改革、地域アイデンティティの尊重政策、ナショナル・アイデンティティの変容等)を明らかにすることが可能となる。 ②多層的なアクター・論点の拡大-地域主義以外のアクター、争点との関連性について、引き続き研究を進める。とりわけ、中央の既成政党との関係、国政の議員の役割(兼職、選挙活動における地域利害・アイデンティティの分析)、地域主義政党の台頭・活動等、現代との関連性も含める。また欧州審議会およびEC/EUの地域アクターの重視、および制度化も重視し、ヨーロッパレベルでの重層的な分析を試みる。これにより、地域にとどまらず、フランス政治、ヨーロッパ政治の空間変容を明らかにする予定である。また辺境地域における経済振興にも着目し、先端産業の展開がヨーロッパレベル、さらにグローバルなレベルでの意味・インパクトについても分析も進める。これらについて1970年代の比較研究も進めており、日本政治学会等において学会発表、論文発表等も予定している。 ③インド太平洋戦略-現在フランス政府が推進しているインド太平洋戦略の展開を分析し、中長期的な視点から、国境/ボーダー、ナショナル・アイデンティティの変容を分析する。
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Causes of Carryover |
2021年度夏季に予定していたバスク地方および南仏の諸都市での現地調査が、新型コロナウイルス蔓延のため実施できなかった。そのため、2022年度に実施を延期することとした。 2022年度8月から9月にかけて、エクサン・プロヴァンス、トゥールーズ、バイヨンヌ等の南仏およびバスクの諸都市を訪問し、文書館での史料収集、図書館での新聞・図書等の閲覧、先端産業の産業集積地等の見学等を予定している。
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