2019 Fiscal Year Research-status Report
地方創生のための伝統工芸産業の産地戦略:磁器産地の観光まちづくりの事例を通して
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19K12553
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Research Institution | Hakodate University |
Principal Investigator |
井上 祐輔 函館大学, 商学部, 准教授 (90737975)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
東郷 寛 近畿大学, 経営学部, 准教授 (10469249)
山田 雄久 近畿大学, 経営学部, 教授 (10243148)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 地方創生 / 伝統産業 / 産地戦略 / 産地ブランド |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、産地における業界団体と企業の活動に焦点を当て、産地商社と製造業者の伝統産業としての主観的位置づけに基づいた各団体の取組み、特に有田焼産地との関係と波佐見焼ブランドの確立による産地の自立について調査した。 波佐見焼産地では2000年頃から各窯元・産地商社が産地ブランド化を意識した生産・販売を行い、2010年頃から市場シェアを増加させている。波佐見焼産地では、伝統的に有田駅から出荷される陶磁器に有田焼という産地ブランドを使用してきたことに対し、2000年頃から産地表示の厳格化が求められ、波佐見焼ブランドを確立しようとした経緯がある。したがって、産地のブランド化という変化が生じる前後の比較を行う必要があることから、明治期から現代までの産地の状況を明らかにするために、主要窯元および産地問屋などにヒアリング調査と、業界紙やと業界団体等の資料収集を行った。 その結果、波佐見焼産地において産地ブランドの確立という変化は、制度変更への対応と需要への対応によって生じていたことが分かった。特に、バブル崩壊以降の需要量の低下は、需要搬入企業としての商社の交渉力を低下させ、産地ブランドや窯元ブランドの創造の契機となり、波佐見焼ブランドの自立を生み出す背景となった。とりわけ、窯元ブランドや商社ブランドなどの企業ブランドは、特定の企業の交渉力の源泉になりうるため、対立を生み出す原因となりやすいが、地域ブランドは窯元も商社も利用できるため、両者の協力関係を強化した。 こうした産地レベルの変化に対し、個々の企業レベルでは生産規模に変化はみられるが、生産体制(柔軟な専門化、仲間型取引)に連続性が発見された。窯元ごとに連続させるもの(窯元の創業の経緯による強み、生産設備の性能と規模、窯元ブランドの強さなど)に違いはあるが、それらを準拠点として窯元間の差別化を図っていたことがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は当初の計画に従って、滞りなく調査研究を進めることができた。その理由として、予備調査ではヒアリングできていなかった新しいヒアリング対象者(窯元)への調査が行えた点と、次年度以降の論文作成のための確認などを調査対象と行えた点、戦後からの業界紙の収集が行えた点から順調であると判断している。 その一方で、本年度は産地の企業に焦点を当てヒアリング調査、資料収集に注力したため、収集した資料から分析した結果を成果物にまとめることと、まちづくりという観点から分析することが次年度以降の課題である。 現在の日本の情勢下において、ヒアリング調査・資料収集、公表内容の確認の継続が困難になることも考えられるが、その場合、既に収集した資料を活用するだけでなく、オンライン通話等を活用することで、対応していく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、波佐見焼産地の窯元・商社を中心とした事業システムに関して論文作成する予定である。これは、産地間比較を研究する上でも、他産地の事業システムの分析が行われているため、比較する上でも必要となる。 加えて、当初の計画通り、本年度の資料調査とヒアリング調査に基づき、行政機関、商社、コンサルタントの活動に焦点を当て、観光まちづくりへの取り組みに対して調査を行う。とりわけ、地場産業では行政機関等(長崎県、波佐見町、波佐見焼振興会、長崎県窯業技術センター)との連携が販売機会や生産技術向上において活用されることから、各組織の取組みについて調査を行う。
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Causes of Carryover |
第1に、本年度に行ったインタビューデータ全てがテキスト化されていないことである。次年度繰越分は,インタビューデータ反訳費に充てる予定である。 第2に、本年度の調査を行う過程で、長期にわたる財務データを収集する必要性が生じた。しかし、企業から提供を受けることは困難な部分があるため、民間調査会社を活用することにした。しかし、本年度の予算から支出するには不足したため、次年度繰り越し分と次年度予算を活用し、財務データを活用した個々の企業分析を行う予定である。
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