2019 Fiscal Year Research-status Report
イタリアの農村ツーリズムにおける地域毎の推進状況の分析と有効な支援策の検証
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19K12564
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Research Institution | Ferris University |
Principal Investigator |
佐藤 輝 フェリス女学院大学, 国際交流学部, 教授 (30386924)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | アグリツーリズモ / グリーン・ツーリズム / 農村観光 / 地域活性化 / 地方創生 / 人口増減 / 農家民宿 / 半構造化インタビュー |
Outline of Annual Research Achievements |
イタリアの農村振興のためのアグリツーリズモ(以下、ATと略す)に関する統計的研究として、新規に提案したAT農家密度の指標(110県別の人口1万人あたりのAT農家軒数)を用いて、2000年以降の地域毎の推進状況を分析した。その結果、トレンティーノ=アルト・アディジェ州、トスカーナ州、ウンブリア州内の諸県でAT農家密度が特に高かった。この指標によると、上位15県では人口減少の兆候が見られなかった(8.6軒/1万人以上)。さらに県毎の地理的に細かい特長を抽出することによって地域活性化の具体的な方策を考察した。 さらにイタリアのAT農家への全国的な支援体制の概要と各組織の役割を解明するために、トスカーナ州とウンブリア州に加え、AT農家軒数が3番目に多かったロンバルディア州、および2000年以降のAT農家軒数の増加比が最も高かったプーリア州等を対象にして、AT農家への支援の政策について州庁に半構造化インタビュー調査をおこなった。また、さまざまな支援を受ける側の3軒の典型的なAT農家でも同様に調査を実施した。 これらの結果を総括すると、各州庁がAT州法や業務講習を監督する責任があり、アグリツーリズモ専門の主要な3つの協会がコンサルタントとプロモーションの面を強力に支援していることが分かった。欧州連合がAT農家の改築費用等への財政的支援を提供しており、イタリア農林食料政策省がAT農家民宿の品質保証・格付けを先導的に担っていることも把握した。 これらの研究実績を残すことができ、主要な成果を社会に還元し始めていると考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
イタリアのAT諸協会・支援組織・情報通信企業等の公表する最新のAT農家の軒数を対比させながら、なかでも県別の数値をすべて確認できたイタリア国立統計研究所の2018年のデータを採用し、人口1万人あたりのAT農家密度の指標を新規に提案・算出し、計画どおり、地理情報システム上に推計結果を図示することができた。また、注目すべき成果の一つとして,人口密度の平均以下の県に着目して、AT農家密度が高い県では人口が増加している傾向も認められた。 上記の県毎の詳細な結果を参考にして、全20州の中から先進的な4州を選定し、充実した調査を実施できた。トスカーナ州庁「農業・農村発展部農業事業活動課」、ウンブリア州庁「農業とその多角経営化に対するサービス部」、ロンバルディア州庁「農業,食品およびグリーンシステム、生産と領土開発推進部」、およびプーリア州庁「農業、農村および環境開発局」の各部署から、AT開業や経営上の支援策の詳細を得た。また、上述の諸州のAT農家でもインタビュー調査をおこなって、これまでに受けた有効な支援内容やインターネット広報の利用状況を明らかにした。さらに、AT関連の主要3協会の概要を各ホームページ等で収集し、なかでも活動の盛んなツーリズモ・ヴェルデのトスカーナ支部を訪問し、2000年以降の実績や現在の問題点について有益な情報提供を受けた。 以上の結果をまとめて、イタリアのAT農家の支援体制における組織と役割の全体像を初めて解明・図示することができた。特に支援策の分野として「品質保証(格付け)」、「プロモーション」、「業務講習・コンサルタント」、「州法(規定の調整)」、「財政支援(改築補助等)」の重要性を明らかにした。
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Strategy for Future Research Activity |
調査2年目に向けての日本の参考となる重点課題として(1)ATの地域密着型の中間支援組織による活動内容、特にAT農家の格付け制度の成果と課題に関しての現地調査、および(2)農業団体による地産地消のサプライチェーン支援の効果的な手法の把握が新たに浮かび上がってきたため、これらの訪問先の選定・調整に取りかかっている。地産地消とATは密接に関与しており、AT州法によって自家・州内生産物を60~85%使用することが規定されていた。 とりわけ、前者(1)ではAT農家密度の最も高いトレンティーノ=アルト・アディジェ州のボルツァーノ県内の中間支援組織ガッロ・ロッソが1998年から幅広い活動を展開しているため、インタビュー調査によって詳細を明らかにしたい。後者(2)については、イタリア最大の農業団体であるコルディレッティのAT協会テッラノストラの展開するカンパーニャ・アーミカというネットワーク活動が秀逸であるため、これが活発であると判断したヴェネト州支部を訪問する予定を立てている。なお、当初に希望していたエミリア=ロマーニャ州に所在する食のテーマパークでの調査については本研究課題上の優先度が下がった。 渡航費用・時間の節減を念頭において、地理的に効率的な旅程の設定を心がけている。ただし、新型コロナウイルスの感染によってイタリア全土で甚大な被害が拡大しているため、大使館や現地通訳者からの情報収集に努め、渡航時期を慎重に検討している。もし今年度中に渡航できなかったらイタリア語の質問文(通訳者に謝礼)を電子メール等で担当部署に送信し、概略を把握する。必要に応じて翌年度の訪問を再計画する。 なお、調査3年目にはイタリア南部に渡航して、AT農家の増加比の2番目に高いラツィオ州、上記AT農家密度の最も低いバジリカータ州等に対象範囲を広げ、AT産業の発展性の諸要因をより総合的に検証することを想定している。
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Remarks |
セミナー招待講演: ・佐藤 輝「イタリアの農家民宿を取り巻く状況や農家への支援体制の概要」神奈川県令和元年度農泊推進対策事業・農泊セミナー,神奈川県庁小田原合同庁舎2020年2月5日 ・佐藤 輝「エコキャンパスをつうじた地域連携とイタリア農泊事例研究」横浜市環境創造局研修会「大学から見た横浜の農業の魅力 ~農と大学連携~」,関内中央ビル2020年2月19日
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