2020 Fiscal Year Research-status Report
世界遺産候補「百舌鳥・古市古墳群」の天皇陵古墳の意味をめぐる葛藤
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19K12572
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Research Institution | Fukuoka University |
Principal Investigator |
藤村 健一 福岡大学, 人文学部, 准教授 (00469181)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 世界遺産 / 文化遺産 / 天皇陵 / 古墳 / 聖域 / 文化財 / 観光地 / 地域や国の誇り |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年に世界遺産に登録された百舌鳥・古市古墳群には、仁徳天皇陵や応神天皇陵など6基の天皇陵古墳が含まれる。これらは皇室の祖先の墓として宮内庁が管理し、祭祀が行われている。本研究はこれら6基の天皇陵古墳を対象として、これらに付与された意味を、これに関わる人々の言説や行動の分析を通して明らかにする。さらに、付与された意味の相互矛盾とそれに起因する摩擦について考える。 これに関わる人々は、おおむね(a)宮内庁・皇室・神道界の関係者や皇室崇敬者、天皇陵巡拝者、(b)歴史学・考古学研究者や考古学ファン、(c)地元経済界・観光業界の関係者や観光客・古墳ファン、(d)地元自治体・文化庁の関係者の4つに大別できる。天皇陵古墳に対して(a)の人々は「聖域」、(b)の人々は「文化財」、(c)の人々は「観光地」、(d)の人々は「地域や国の誇りである世界遺産」と意味づける傾向にある。 2020年度はこうした構図を整理し、『考古学ジャーナル』に発表した。さらに、上記(a)の人々のうち宮内庁・皇室・神道界の関係者に焦点を当て、彼らの言行の分析をとおして天皇陵古墳への「聖域」としての意味づけを考察した論文を『立命館文学』に発表した。 彼らは「聖域」である天皇陵古墳の静安と尊厳を守ることを重視し、世界遺産登録によりこれらが破られることを一様に危惧していたが、登録が現実味を帯びるにつれ、そうした声は小さくなっていった。これは、ユネスコが大方の予想に反して天皇陵古墳の発掘調査や公開範囲拡大を求めなかったことが一因だが、それに加えて、天皇陵古墳を聖域視する人々も地元で高まる登録への期待や、「地域や国の誇りである世界遺産」という自治体関係者の意味づけを言下に否定できなかったことも要因として考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2019年度はおおむね研究実施計画のとおりに進めることができた。 だが2020年度は当初から新型コロナウイルス感染症が流行し、その状況が年度末まで継続した。この間、勤務校から近畿地方への出張の自粛を求められたため、現地調査を断念せざるを得なかった。しかし、文献調査や自治体への情報公開請求、電話での聞き取りなど、現地へ行かずにできる調査方法を用いて、一定の研究業績を生み出すことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
「研究実績の概要」で述べたとおり、天皇陵古墳に対しては(a)~(d)の相異なる立場の人々によって、主に4つの意味が付与されている。これらは相互に矛盾を孕んでおり、それゆえ(a)~(d)の人々の間で摩擦が生じることも考えられる。2021年度は、引き続きこの点を中心に調査を進める。 新型コロナウイルス感染症の流行が沈静化した後、天皇陵古墳を実際に訪れている(a)皇室崇敬者、天皇陵巡拝者や(c)観光客・古墳ファンが天皇陵古墳に抱いているイメージや意味を調べるため、現地で訪問者に対するアンケート調査を実施したい。併せて、(b) 歴史学・考古学研究者ならびに考古学ファンや、(d)地元自治体・文化庁の関係者の天皇陵古墳に対する見方や関わりを、文献や聞き取りなどを通して明らかにする。 こうした調査結果を整理し、天皇陵古墳に付与された意味の構図と、これをめぐる葛藤の構図を解明する。 以上の考察内容を学会や学術雑誌で発表する予定である。
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Causes of Carryover |
「現在までの進捗状況」で述べたとおり、2020年度を通じて、新型コロナウイルス感染症の流行をうけ、出張を見合わせざるをえない状況になった。そのため、予定していた旅費支出ができなかった。 2021年度はできるかぎり出張を実施し、聞き取り調査やイベントへの参与観察、シンポジウムへの出席、天皇陵古墳周辺の現地調査などを行う予定である。 ただし本年4月25日、政府が研究対象の古墳が立地する大阪府を対象とした緊急事態宣言を行った。さらに5月12日には、研究代表者の勤務地である福岡県も宣言の対象地域に追加された。それゆえ今後も、研究活動が大きく制約されることが懸念される。
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