2019 Fiscal Year Research-status Report
リビングヘリテージとその活用の多様性に関する比較研究
Project/Area Number |
19K12590
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
西村 正雄 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (30298103)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 無形文化遺産 / ラオス / フィリピン / 集合的記憶 / 遺産の活用 / 遺産の保存 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は、第1年目に当たるため、次の2点に絞って、プロジェクトを進めた。①本研究プロジェクトの目的、実施内容、スケジュール、および必要とする人員について、ラオスとフィリピンの関係者、また日本側での協力者と情報を共有することに努めた;②プロジェクトの進め方に具体性を持たせるため、まず第一にパイロット的にやって見せることに努め、そのため、第1年目ではラオス南部のチャンパサック県の世界遺産地域内における村落を選び、そこにおいて、現地スタッフ(ラオス中央政府情報文化観光省遺産局関係者、チャンパサック世界遺産保存事務所関係者)日本人スタッフを交え、2回会議を開き、フィールド調査の具体的方法について協議した。その後フィールド調査を実施した。 第1年目のフィールド調査は、ラオスにおいて2回実施した。第1回目は、5月に行った。この調査は、チャンパサック県チャンパサック郡内の世界遺産地域内における、乾季から雨季に変わる時期毎年行われる雨ごいと田植え開始の合図を兼ねた儀式で、「水牛を供犠する儀式」として知られている。1975年の社会主義化の後長く禁止されてきたものであるが、3年前に復活した。儀式が行われたノンサ村において、その準備段階から、中心となる儀式、その後の農作業について、参与観察の形で調査を行った。 第2回目は、12月に、チャンパサック世界遺産内の村15村において、質問票による無形遺産調査と、そこで顕著な技能(織物、歌、踊り、楽器製造など)を有する人びとの発掘作業と、彼らの知識の伝承がどのように行われているのかについての一般概況を調査した。この調査は、さらに第2年度にも継続して行う予定である。調査では、そうした技能者が何を伝えたいのかについても、聞き取り調査を開始している。技能の伝承そのものに「集合的記憶」の伝承が行われている様子がうかがえた。さらに検証する必要がある点である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年の研究活動は、おおむね計画通りに進んだ。当初より、本プロジェクト開始の第1年目は実験的に行うことを考えており、第1年目でのやり方から修正を加えて、第2年目に本格的な調査に臨むことを計画していた。その予定通りに調査は進んだ。まず、今回のプロジェクトの主旨について、ラオス、フィリピンの研究者と共通の認識ができた。特に、①具体的な達成目標として、人々が将来に残したいと思っているものについて、無形遺産を中心に調査し、その中で集合的記憶について調査から発見してゆく点;②その方法として、無形文化遺産のセンサスサーベイを実施すること;③そのための質問項目の設定ができたこと;④さらに進んで、そのうち特定の技術、技能を有する人々に詳しくライフヒストリーを聞き、かれらの社会ネットワークを明らかにすること、について共通の認識ができた。ま他フィールドワークを通して、現地の若い研究者を育てる意味で、ラオス、フィリピンにおける若手研究者の参加を促し、その同意を得たことも、研究の進展にとってプラスになるものと思われる。 ただ、一点、問題も発生している。ラオスにおいては、比較的早期の段階(2019年5月)の段階から、調査を始めたため、ほぼ初年度の計画はすべて消化できたが、フィリピンの調査は、2019年度秋から冬にかけて、試験的にフィールド調査を行うため準備してきたが、秋に台風が多く発生し、また2020年1月ごろから、現地調査計画の時期に新型コロナウイルス関連の問題発生により、フィリピン現地でのフィールド調査が思うようにゆかなかった。この点、フィリピンにおける実験的なフィールド調査についてまだ、予定が残っている。しかし、その代替として、ネット等によるコミュニケーション手段で現地の研究者と情報の交換を行ってきた。この結果、フィリピンにおける無形遺産について、やや時間的偏りが見られることを発見してきた。
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Strategy for Future Research Activity |
第2年目は、1年目に実験的に開始した、質問票による調査を継続する。ラオスにおいては、すでに開始している技術、知識の一般概況を確認するための村落調査をさらに拡大する。本年でそうした一般概況の村落調査をいったん完了する。その上で、特定の技術を持つ技能者について、もともとの伝承の方法について聞き取り調査を行い、古くからのやり方について記録する。さらに、そのやり方の継続が可能かどうかについて、周辺の人々を含めて聞き取り調査をおこなう。さらに、周辺の人々の間でその技術や知識をどのように活用してきたのかについて調査する。例えば、織物のデザインが本来の布織だけではなく、他の分野に応用されているかどうかについての聞き取り調査を行う。 フィリピンにおいては、2019年度に行う予定であった、質問票を使っての無形遺産関連の一般概況調査を実施する。その過程で、特殊な知識、技術を持つものを発掘して、詳細聞き取り調査を行う。聞き取りの内容は、彼らの知識、技術をどのように学んできたのか、それをどのように伝承してきたのか、伝承した過程での変化について、さらにその伝承を応用しようとしているのかどうかである。またそうした人々の周辺の人々に、そうした特殊な知識や技能を伝承する意義、どのように応用しようとしているのかについて聞き取り調査を行う。2019年度、フィリピンではフィールド調査を行わなかったが、文献によって、フィリピン、セブの無形遺産はほとんどすべて、スペイン植民地時代起源のものが多く、いわゆる有形の遺産はスペイン植民地時代以前のモノをたどる意向があるのと比べ、好対照を示していることが見て取れる。なぜ、無形遺産に関しては、スペイン植民地時代を起源とするものに帰結するのか、また本当にスペイン植民地時代以前のものは存在しないのか、注目しながらフィールドデータを集める。最終的に、情報のマッピングを開始する。
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