2020 Fiscal Year Research-status Report
リビングヘリテージとその活用の多様性に関する比較研究
Project/Area Number |
19K12590
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
西村 正雄 早稲田大学, 文学学術院, 名誉教授 (30298103)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | リビング・ヘリテージ / ラオス、チャンパサック県 / フィリピン、セブ市 / 遺産の保全 / 遺産の活用 / 観光開発 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の主要目的は、東南アジアの遺産研究の中で、特に住民が自ら持ち続けてきた遺産について、その活用のやり方の多様性を、ラオスとフィリピンにおけるフィールド調査を通して明らかにすることである。先行研究が少ないため、現地におけるフィールド調査で得られる情報が中心的な資料となる。具体的には、博物館・展示室調査と遺産のある地元住民への聞き取り調査の2通りの方法をとる。博物館・展示室調査では、展示の方法、順序、強調する点のおき方に注目して調査している。聞き取り調査では、量的調査として、アンケートによるマティリアル・センサス方式の調査と、住民へのインタビュー調査を中心とした質的調査の2様式の調査を進めている。第1年度は、この計画に基づき、ラオス、チャンパサック県チャンパサック郡、スクマ郡とパットポン郡において住民の遺産との関わりに関する調査を行った。調査は日本側の研究協力者とラオス側の協力者の協力のもと、合計15村の調査を終了した。また、チャンパサック郡の村の展示室の調査を行った。フィリピン・セブ市におけるフィールド調査は、フィールド調査の具体的な地点を検討することに集中した。今回、モスリムの人々に暮らす地域における調査が必要なため、フィリピンの国勢調査の資料を基に検討してきたが、研究協力者の所属するサンカルロス大学関係者から、安全性の点で、フィールドサイトの再検討がうながされた。その検討のため、実際のフィールド調査には至らず、現地研究者の論文解読を行った。第2年度(令和2(2020年度))に、調査を継続する計画であったが、コロナ関連の事象で、ラオス、フィリピンとも入国禁止となり、現地調査はできなくなった。このため、ラオスにおいては、1年目の調査資料の整理、フィリピンについては、現地研究者の研究の見直しと、スペイン植民地時代の遺産概念についての文献調査を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
第2年度(令和2(2020年度))は、ラオス、フィリピンとも、フィールド調査を中心とする計画遂行を予定していた。両地域とも、コロナにより入国禁止となり、現地調査を行うことができなかった。本研究プロジェクトは、現地の人々が持つ遺産の概念と、その応用の仕方の多様性を明らかにすることを目指しているため、現地フィールド調査が中心になる。インターネット活用による調査も模索したが、それもできなかった。このため本プロジェクト遂行に大きな遅れが生じた。ラオスについては、1年目に収集した資料の整理と、今後の調査の見直しを行った。結果として、住民の遺産の概念は、世界遺産のコアーゾーンと、それ以外のゾーンで遺産の保存と応用に関して濃淡が見られること、特に観光開発には、政府主導とは異なった人々独自の工夫が見られるが、総じてそれとは別に彼ら独自のコミュニケーションに基づいた遺産の概念が発揮される傾向が顕著であることが分かってきた。 フィリピンにおいてについては、フィールド調査に代わって、オンラインで、現地協力者依頼の講演と、セブ市の行政担当者と協議を行った。セブ市と郊外において最近さらに、公立のミュージアム、私的展示室が増えてきている情報を得た。また、セブの南に隣接するナガ市においては、ナガ市独自の市立ミュージアムを建設する計画が進行しており、その建設プロジェクト計画段階にオンラインによるフィールド参加を試みた。調査は、サンカルロス大学のジョセリン・ヘラ教授の遺産の保全関連プロジェクトとの共同の形で行った。すでに私が示してきた、セブの人々の間の競争的遺産の概念が、公のプロジェクトにも反映されており、ナガ市ミュージアムの展示の仕方、地域の人々の生活の「記憶」(リビング・ヘリテージ)の表象についても示されているという興味深い結果を得た。この点は今後現地のフィールド調査において検証してゆく必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
令和2(2020)年度予定していた現地フィールド調査が、遂行できなかったことを鑑み、まず令和3(2021)年度は、前年度の計画の遅れを早急に取り戻すことを第一の目標にする。ラオスにおいては、コロナ収束後、本年9月以降フィールド調査を再開する。調査は、特に、アンケート用紙による調査を行い、その部分をまず終了させる。またそれに伴い、特定の村落の中でみられる遺産の保存に伴う独自の試みについて、特に観光化に伴う彼ら自身の試みについて、質的調査を実施する。 フィリピンについても同じく、コロナにより第2年度に予定していたフィールド調査が全くできなかったため、調査を8月以降再開し、当初の予定を完遂することに注力する。具体的には、セブ市のダウンタウンの住民の間における、遺産、とくに無形遺産に関するアンケート用紙による調査と、インタヴューに基づく質的調査を行う。フィリピンについては、2020年度、オンラインによるフィールド調査を現地の研究協力者と一緒に試みた。調査は、サンカルロス大学のジョセリン・ヘラ(Jocelyn Gerra)教授の遺産の保全関連プロジェクトとの共同の形で行う。一般の展示プロジェクトと異なり、地域の人々の生活の「記憶」(リビング・ヘリテージ)をいかにミュージアムとして展示してゆくのかについてに研究調査の依頼であった。これに対して本プロジェクトの中心テーマである①人々の生活の中で残されてきたもの、記憶をフィールド調査を基に記録すること;②その展示方法の部分で、人々の参加を求めることなどを述べた。この部分の進展も含めて、今後のコロナ後の調査再開にむけて、さらに研究を進めてゆく。
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Causes of Carryover |
2020年度はコロナの影響により、当該年度に予定していたフィールドワークが全くできない状態だった。このため、本プロジェクトではフィールド調査が大きな比重を占める。そこで使用する予定であった航空券代、人件費、滞在費に余りが生じた。これが請求した助成金額が異なった理由である。この分は、2021年度に繰り越し、2020年度分もあわせて、フィールドワークと現地におけるデータ分析に集中するつもりである。
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