2019 Fiscal Year Research-status Report
The elucidation of structure and promotional factors for knowledge transfer across the border in the hospitality industry
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19K12592
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Research Institution | Tokoha University |
Principal Investigator |
村瀬 慶紀 常葉大学, 経営学部, 講師 (70624386)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ホスピタリティ産業 / 知識移転 / 暗黙知 / 吸収能力 / モチベーション / 紐帯の強弱 / 能力ベースの信頼関係 / 組織の社会化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は観光・サービス分野のなかで中心的な役割を果たすホスピタリティ産業を対象に、海外進出で生じる知識移転のメカニズムについて解明することが最終的な目的である。 本年(2019)度は、特に欧米の先行研究を参考にホスピタリティ産業における知識移転を促進するもしくは阻害する要因を抽出するための理論的仮説を構築し、精緻化することを第一の目標とした。ホスピタリティ産業における知識移転に関する先行研究は、日本では皆無であり製造業、特に研究開発を対象にしたものが多く、同産業で国境を越えた知識移転に関する議論は少ないといえる。本研究では産業の特殊性を導出するために、サービス従業員が取り扱っている無形性、すなわち暗黙知に焦点を当て、国境を越えた暗黙知の移転について取り扱っていくことにした。その結果、以下の3点が明らかになった。 第1に暗黙知の移転に関する分析フレームワークを提示し、先行研究から移転促進及び阻害との関連を明らかにした。例えば「受け手(recipient)が知覚する送り手(source)の能力に対する認知」、「受け手の吸収能力」、「送り手と受け手の強い人間関係」に対して暗黙知の移転と正の相関関係があることが明らかになった。 第2に本研究は特に受け手の吸収能力の視点から、彼らの意欲や関心に影響する要因を先行研究から導出し、5つの仮説;(1)公正な業績評価と暗黙知の移転促進は正の相関関係にある、(2)本社の強い権限によるリーダーシップは知識移転の促進に負の影響を与える、(3)個人の自発的学習意欲が高まれば、知識移転の促進に正の影響を与える、(4)組織間の信頼関係が高くなれば知識移転の促進に正の影響を与える、(5)受け手からみた送り手の能力に対する認知が知識移転の促進に正の影響を与える、を導出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は研究計画書に記してあるとおり、ホスピタリティ産業の知識移転に関する先行研究の収集と渉猟をすること、並びに今後の調査に向けて協力に応じてくれる会社を選定することが目的であった。 その結果、前者に関しては「研究実績の概要」に記されている成果が得られた。後者に関しては協力に応じてくれる会社が十分に得られたわけではないが、パイロットスタディとしてニッコー・ホテルズ・インターナショナルのケースを参考に暗黙知を形式知化することで知識移転を促進する取り組みについて調査することができた。 本年度の研究成果は、英語論文(「A Study of Promoting Knowledge Transfer in the Global Hospitality Industry(仮)」)で発表することを予定している。一方で残念ながら本年度中に研究成果をとりまとめ公表することは出来なかった。 以上のことから本研究テーマの進捗状況の自己評価を「おおむね順調に進展している」と決定した次第である。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度以降は特に下記の3点について計画している。 第1に本年度の研究成果の公表に向けて取り組むことである。本研究はホスピタリティ産業の海外進出が対象であることから、国内外に広く発信するために国際学会(International Autumn Conference of the Korea Association of Business Education)での口頭発表ならびにその研究成果を英語論文(「A Study of Promoting Knowledge Transfer in the Global Hospitality Industry(仮)」)で発表することを予定している。 第2に最新の先行研究を継続的に渉猟し、情報をアップデートしていくことである。例えばホテルチェーンにおけるグローバル戦略との関連では、統合化もしくは現地化の議論ではなく、ホテルの顧客層やサービスの無形性を考慮するとサービスのグローバルスタンダード化を目指すべきであり、それらを受容できる現地市場の地理的近接性や文化的寛容度も暗黙知の移転促進の影響要因として検討しなければならない。特に現地市場で新規開業を行う場合は新たに雇用したサービススタッフの吸収能力が重要となり、それらが集団的知識レベル、さらには時間や経済的コストを含めた経営上の課題につながってくる。 これらについて知識の送り手ならびに受け手双方のモチベーションの相互作用について知識移転のメカニズムの理論的精緻化とそこから導出される仮説の構築について研究を推進していくことにする。 第3に導出された仮説をベースに実態調査を行う。研究計画書に記してあるとおり、海外進出を展開している日本のホテル企業に調査の交渉を行い、協力を依頼する。調査の手順はプレテストとしてインタビュー調査を行い質問票の検証を行った後、アンケート調査を実施する。
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Causes of Carryover |
収支報告のとおり、当初の計画に比べて内訳に偏りと差異が生じてしまったが、これは先行研究の渉猟に時間を割いてしまったことと、調査協力先の開拓が難航し、当初予定していた実態調査が遅れてしまったためである。 しかしながら、本年度予定していた研究計画は概ね達成できたため、次年度はこれらの研究成果を生かしてさらに研究を推進していきたいと考えている。 具体的には今後口頭発表を予定している国際学会(Asia Pacific Tourism Association等)への入会及び参加旅費、統計解析ソフト(SPSS、SAS等を検討中)の購入、発表に必要な英文添削、その他文献収集等を次年度の予定経費とし、繰越分と併せて執行したいと考えている。
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