2021 Fiscal Year Research-status Report
香港における移住女性の再生産労働力配置――「グローバル・シティ」のジェンダー分析
Project/Area Number |
19K12603
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
大橋 史恵 お茶の水女子大学, ジェンダー研究所, 准教授 (10570971)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 香港 / 再生産領域 / ジェンダー / 家事労働者 / 媽姐 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、当初の計画上では「ケアの記憶」のオーラルヒストリーの収集をおこなうことで、グローバル・シティとしての香港の経済発展をジェンダーの視点からとらえることをめざしていた。実際としては、初年度は香港社会の政治状況を鑑み、2年目からは新型コロナウイルス感染症による渡航制限により、文字や図像など史資料の収集によって研究をすすめるかたちに方針転換せざるを得なかった。 2021年度はこの方針転換をうまく軌道に乗せることができた。4月から7月にかけて、近現代史に詳しい香港浸會大学の大学院生からの協力を得て、さまざまなアーカイブから関連史料を収集した。本研究は、香港研究において注目されることが多い東南アジア等に出自をもつ女性たちだけでなく、中国・広東省から香港に移り住んだ家事労働者の存在に着目するものであるが、2021年度に収集された史資料を通じて、1970年代頃までの植民地香港社会の再生産領域に中国出身の移住女性たちがどのように参入していたかをとらえることができた。なかでも20世紀初頭に広東デルタの製糸業を支えた女性たち(媽姐)の香港再生産領域への移動実態にかかわる史料を得られたことの意義は大きい。 年度半ばから後半にかけては、得られた史資料について理解をふかめるために、香港社会についての社会学・人類学的な先行研究の蓄積にあたりながら研究をおこなった。この成果の中間報告は、12月に中国当代史研究ワークショップで報告した。ワークショップでは、中国・中国語圏の現代史を専門とする中国と日本のさまざまな研究者から貴重なコメントをいただくことができた。現在、同報告をリバイズした内容の英語論文を執筆しており、国際学術誌に投稿する予定である。2021年度には日本語でも関連するテーマで論文を仕上げた。この論文は2022年4月刊行の学術書に収録されている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題はオーラルヒストリーの分析によって推進していく予定であったが、1年目(2019年度)と2年目(2020年度)は、香港社会の政治状況や新型コロナウイルス感染症による渡航制限により、計画を十分に進めることができなかった。現地フィールドワークの実現困難が長期化するなかで、アーカイブ資料を中心に研究するかたちに方針転換するに至った。 こうした制約は3年目(2021年度)には解消され、現時点では研究は順調に進んでいる。研究課題と密接にかかわる史資料を得ることができ、それらをふまえた考察を引き続き進める必要があるため、研究期間の延長を申請した。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年5月現在、香港への渡航はいまだ容易ではないため、オーラルヒストリーの収集は断念している。しかし20世紀の広東デルタから香港へと移り住んだ女性たちに関わる史資料を用い、継続して研究を進めることで、香港および中国華南の社会経済史を新しい視点から論じることが可能になるのではないかと考えている。今後の課題は、製造業を中心としていた香港経済が東アジアの金融センターとして成長していく過程において、再生産領域がどのように変化していったかを論じることである。この点については、引き続きアーカイブ調査を進めていきたい。
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Causes of Carryover |
本研究は、当初の予定では香港での現地フィールドワークを通じてオーラルヒストリーを収集することを想定しており、予算も海外渡航を見越して設計していた。実際には現地情勢や新型コロナウイルス感染症拡大による渡航制限のために、アーカイブでの史資料収集をもとにした研究に変更せざるを得なくなり、全体的に予算の使い方を再調整した。また、現地調査の困難のために2019年度・2020年度は緩やかにしか研究を進められなかったため、研究期間を延長する方針をたてた。2022年度は、2021年度に行ったアーカイブ調査で得られた史資料の分析を継続的に進め、最終的な成果をまとめる予定である。
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Research Products
(5 results)