2021 Fiscal Year Research-status Report
Gender and Ideology in Japanese women's poetry of the Asia-Pacific War
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19K12607
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Research Institution | Shiga University |
Principal Investigator |
菊地 利奈 滋賀大学, 経済学部, 教授 (00402701)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ジェンダー / 女性詩 / Japanese poetry / poetry translation / アジア太平洋戦争 / 近現代詩 / 戦争詩 / 文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は、アジア太平洋戦争下の女性詩にかぎらず、より大きな枠組みで日本語女性詩をとらえる形で研究をすすめた。子ども時代の戦争体験を題材とした女性詩作品に着目、新藤涼子(b.1932)の満州引き揚げ体験を扱った詩や、石川逸子(b.1933)の在日朝鮮韓国人問題を扱った詩などを中心に、女性詩人が語る戦争のレガシィやトラウマを考察した。英語論文としてまとめるため、対象詩は英語詩人との共訳で英語詩へと翻訳した。また、戦後生まれの女性詩人らが語る戦後レガシィを考察に加え、ぱくきょんみ(b.1956)の韓国ルーツ関連詩、網谷厚子(b.1954)の沖縄戦関連詩を英訳。どの英語翻訳作品も英語圏で出版されるアンソロジーへの収録が決まった(出版は次年度以降)。 10月には詩の翻訳者として、RMIT(ロイヤルメルボルン工科大学)とSingLit Station(シンガポール文学協会)の共催で毎年開催されるWrICE(Writers Immersion and Cultural Exchange) の2021年度のメンバーに選ばれ(https://wrice.org/)、日本女性詩人らがアジア太平洋戦争への協力をどのようにとらえ、自身の加害性をどのように表現しているかについて、石川逸子の詩集『砕かれた花たちへのレクイエム』から「いわゆる慰安婦」問題を扱った詩を中心として発表、日英バイリンガル朗読をおこない、詩・文学・芸術と戦争責任・戦後責任の問題について考察した。WrICEでは多くの参加メンバーが、日本が当時侵略していたアジアの国々からの作家・詩人・翻訳家であり、そのようなメンバーと、アジア太平洋戦争中の日本の加害がどのような形で文学表現につながったかを議論できたことは大変貴重であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度も、新型コロナウィルスの影響で研究計画に狂いがでたが、制限をかけながらも徐々に翻訳ワークショップや朗読会等が対面で実施できるようになり、状況は前年度より改善された。WrICEについては現地に集まることはかなわず、digital residency (オンライン)での参加となったが、オンライン上でアジア太平洋各地域出身の詩人らと交流ができ、アジア詩のなかの日本語詩を再考する貴重な機会となった。また、2021年3月には2年ちかく延期されていた海外出張が実現し、キャンベラ大学にて共同研究・詩の共訳を本格的に開始できたことで、今後の研究進行の目処が立った。 本研究では、研究対象の女性詩人らの親族へのインタビューを予定していたが、新型コロナウイルスの問題が解決したわけではなく、対象者が高齢であることに配慮し、インタビューは今年度も実施せず延期することとした。8月~9月に予定していたキャンベラ大学での共同研究も中止となった。このように、今年度も新型コロナウィルスの影響で、計画通りにすすめなかった点があったことは否めないが、延期されていたキャンベラ大学での共同研究が開始されるなど、状況が改善した側面もあるので、過去2年に比べると比較的進捗はスムースであり、各種変更がありながらも「おおむね順調」に進展したと判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は「アジア太平洋戦争下の女性詩」ということで、戦中に書かれた女性詩に着目し研究をすすめてきたが、「敗戦」が詩史の切れ目であるという概念に捕われず、戦後詩も含めたうえで、女性詩人による戦争関連詩における「加害性」について考察をすすめることも考えていく予定である。より大きな枠組みで日本語女性詩をとらえ、女性詩史における「戦中詩」の位置と意義を見直すことで、女性詩の発展と変化、特に女性詩のなかの「戦争」の描かれ方の変化をもとらえることができるのではないかと考えるからである。 また、長期的には、日本語女性戦争詩と英語女性戦争詩との比較や、植民地下にあった国々の女性詩のなかで、アジア太平洋戦争における日本の侵略や加害がどのようにとらえられ描かれているかについても、考察をすすめていきたい。後者については、WrICE参加メンバーであったアジア諸国の詩人らとの共同研究として、アジアの女性詩人が、アジア太平洋戦争、特に日本と日本に侵略されたアジア諸国の関係をどのように表現しているかについて、比較分析していきたいと思っている。 これらの試みが、日本語女性戦争詩を世界(における)女性戦争詩のなかに位置づける試みにつながり、延いては、世界詩のなかで日本語女性詩をとらえ、世界詩のなかに日本語女性詩を位置づける試みにつながることを期待する。 海外研究者との共同研究を軸におき、海外に研究成果を発信することを目的とした研究なので、研究題材となる女性詩の翻訳を今後も継続する。国際的に活躍する詩人らと、詩の共訳や文学作品の翻訳をおこなうという行為そのものが、ひとつの世界文学のあり方であると考え、翻訳ワークショップや多言語による詩の朗読会の開催も(新型コロナウイルスの状況に配慮しながら)積極的に開催していく。
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Causes of Carryover |
2021年8月~9月に予定していた海外出張(キャンベラ大学における共同研究)が新型コロナウイルスの影響でキャンセルされ延期となったため、次年度使用額が発生した。
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Research Products
(6 results)