2022 Fiscal Year Research-status Report
「第三者の関わる生殖技術」の利用をめぐる開かれた議論の構築
Project/Area Number |
19K12615
|
Research Institution | Tokyo Denki University |
Principal Investigator |
柳原 良江 東京電機大学, 理工学部, 教授 (30401615)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 代理出産 / 卵子提供 / 生殖アウトソーシング / 当事者 / 文化社会学 |
Outline of Annual Research Achievements |
主に以下の4点である。 1)訳書出版:コロナ禍で実施不可能となった国際イベントに代わり、世界中の代理母当事者やその家族、卵子提供当事者らの手記をまとめた著書“Broken Bonds:Surrogate Mothers Speak Out”(2019年Spinifex出版)の邦訳『こわれた絆--代理母は語る』を作成し出版した。本書制作にあたり、複数の共訳者を募り、そのとりまとめと、全体の監訳・監修を行った。監訳者として、これまで複数の語句が存在したり、それぞれの定義があいまいだったりして理解を困難にさせていた、代理出産に関する英語圏の決まり文句を統一すべく、語源や語句、用法の変遷を、論文レビューにより確認した。また読者となる日本語話者に対し、原著に掲載されていた事例の補足事項を論文や報道により確認のうえ説明ページを設けた。また原著邦訳分に加えて、さらなる他国の情報や日本国内の情報についても、先行研究・各種報道を調査したうえで説明文を執筆した。 2)イベント開催:本書出版後に、オンラインにて市民向けにイベントを開催した。イベントでは本書に関する内容を参加者に説明した。また原著者が制作した代理出産に関する映画の上映会も実施した。 3)単著制作:科研の研究成果も含めた単著の執筆を進めるため、本科研により出版した英語論文2本を日本語に翻訳した。 4)理論翻訳:本科研において依拠する文化研究の理論枠組について、その説明を単著に記すには分量が多すぎること、またより正確な理論把握のためには原著を参照するのが最善と考え、最も代表的な理論書の邦訳を開始した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本科研の最大の取り組みが、様々な国の当事者の声をすくいあげることであった。当初は国際的なイベント開催を予定していたが、コロナ禍に伴いそれが不可能となり、その代替手段として、当事者の声をまとめた洋書の翻訳出版を実行した。翻訳のみならず、語句統一や解説文執筆にあたり、さらなる研究調査が必要となり、出版までには当初の予定よりも長めの期間を要したが、無事の出版を果たしたことに加え、内容面での正確さ、ち密さにおいて優れた書籍となり、質の高い研究成果を残せたと考える。 一方で、訳書に時間を取られていたことや、コロナ禍で国際学会が延期され、それに伴って当初予定していた論文執筆が遅れたことから、本科研の内容をまとめた単著出版には至らなかった。しかし次年度2023年度の目途は立っており、当初予定していた内容はおおむね果たせる目途がついている。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまで調査した内容をもとに、国際会議での報告を計画している。それにより研究成果を国外にも周知する予定である。またサバティカルのため2023年度は米国在住であることから、現地で代理出産や卵子提供に関する、より具体的な調査を実施し、コロナ禍では文献調査にとどまらざるをえなかった海外の状況、またコロナ禍が明けて、急激に変わりつつある世界の状況を、より明瞭に把握できるよう努める予定である。 本研究では研究成果をまとめた単著出版も進めているが、これまで英語で執筆してきた研究内容を、日本の書籍として出版するにあたり、その社会理論部分を説明する和書が存在しないことから、その部分が長くなりすぎるという問題が見つかった。 ジェンダーや女性の身体に関する内容は、理論枠組みが明確ではないと、その研究成果の客観性を十分には担保できないことがある。ましてや本研究の軸となる「開かれた理論」構築のためには、そこで展開される理論が学術的に正当であることを示さねばならない。検討した結果、その部分を単著に無理に詰め込むのではなく、独立して別の書籍として出版することに方向転換した。ただしその作業は規模が大きすぎるため、本科研のみですべてを行うのは不可能であることから、科研で出版する単著に関係する、2つの章を訳出するにとどめている。
|
Causes of Carryover |
本科研では国際イベントや国際調査を予定していたが、コロナ禍で延期した上、結果的には実施が難しくなったことから、方向転換をして訳書を制作した。訳書制作を決定するまでに時間を要したため、結果的にすべての作業が先送りとなり、全体的に遅れが生じた。2022年度は、訳書に取り組んだこと、また未だコロナ禍が続いていたことから、学会報告など、対外的な活動を自粛していた。最終年度の2023年は、学会参加や国際的な調査が可能となったので、それらの活動に助成金を利用する。
|
Research Products
(2 results)