2019 Fiscal Year Research-status Report
ケアの倫理の再定位をめざす研究:ネオ・リベラリズムに対抗する公的規範として
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19K12620
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
岡野 八代 同志社大学, グローバル・スタディーズ研究科, 教授 (70319482)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ケアの倫理 / ネオリベラリズム / 民主主義 / フェミニズム理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、1:ケア関係内の個人間の倫理としてのみ理解されがちであったケアの倫理を、フェミニズム理論と実践のなかに位置づけることによって、公的な規範として再定義する。2:現在進行形で行われつつある、ケアの倫理研究のグローバルなネットワーク作りに尽力しながら、ケアの倫理がグローバルなネオ・リベラリズムの覇権的な展開にいかに挑もうとしているのかを調査する。3:1と2の課題を総合することで、ケアの倫理が、あらゆる領域の経済合理化や、その反動としての安全保障化の流れに替わる、民主的で武力に頼らない平和な世界を提起しようとする、新しい政治的原理となりうることを明らかにすることが目指されている。1については、ケアの倫理を民主主義理論と接合することを試みる、ジョアン・トロントの研究について、政治思想史研究からケア研究へと主軸を映していく彼女の研究史を辿った(成果については、その一部を論文として、また、全体像については、『ケアに満ちた民主主義へ』として2020年度中に公刊予定)。2については、カナダ・トロント大学におけるグローバル・ケア・サミットにおいて、3の内容に関する日本における日本軍「慰安婦」問題における、「少女像」をめぐる政治状況や議論状況を分析する視座としてのケアの倫理の重要性を報告した。 本年度の研究は、ケアの倫理を正義論との対決といった日本の倫理学において論じられがちなケアの倫理の布置を、合衆国におけるフェミニズムの歴史のなかに位置づけなおし、ケアの倫理を理解するための文脈を明確にすることに焦点があてられた。その結果得られた知見は、政治学のなかでもケアの倫理が注目されはじめたケアの倫理がもつ批判力の在処を、実際のケア実践からトロントが抽出した、ケア実践をめぐる5つの局面のなかに見いだし、そうした局面は、政治過程にこそ相応しいという結論を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ケアの倫理を公的な規範へと鍛えあげるために、ケアの倫理を合衆国のフェミニズム理論史に位置づけることができたこと、政治学におけるフェミニズム理論一般の批判力のあり方を見極めることができたこと、また、ケアの倫理が重視する「相互依存する人間の脆弱性」に立脚しながら、既存の安全保障概念について批判的に読解することができた。また、研究成果としても、ケアの倫理に関する英語論文を一本、また海外での学会報告も遂行され、海外連携も一層すすんだ。以上から、予定通りに研究はすすんでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、ケアの倫理を民主主義論の規範原理として再考し、現在のネオ・ネオリベラリズムに対抗しうる規範を構想することにもある。そこで、本年度は、現在、歴史、思想史、ポピュリズム研究、世代間正義、環境といったさまざまな観点から見直されてきた民主主義論について知見を拡げ、民主主義論の観点からの、ケアの倫理固有の意義について考察する。なお、2020年度は新型コロナウィルス感染の影響で、海外での報告などの計画がすでにすべて中止となっている。そこで本年度については、文献研究に集中する。
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Causes of Carryover |
概ね計画通りの研究を遂行することができたが、年度末に新型コロナ・ウイルス感染の拡がりの影響で、計画していた国内出張が一件キャンセルになったため。 次年度は、海外での研究発表、国際研究会への参加、文献研究を中心に予算を執行する。
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