2021 Fiscal Year Research-status Report
ケアの倫理の再定位をめざす研究:ネオ・リベラリズムに対抗する公的規範として
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19K12620
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
岡野 八代 同志社大学, グローバル・スタディーズ研究科, 教授 (70319482)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ケア不足 / ケア労働 / 民主主義 / フェミニスト経済学 / コロナウィルス・パンデミック |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、世界的な新型コロナウイルス・パンデミックのなかで注目されたエッシャル・ワークの一つとしてのケア労働について、不可視化されてきたケア実践とケア労働がもつ社会的意義を考察することができた。とくに、日本ではオリンピック開催が強行されたり、ある特定の産業には多大な支援がなされたりした一方で、医療はいうまでもなく、保育や介護、介助を担う事業主や労働者から、過重な負担にみあう報酬がないことへの批判がなされ続けたにも関わらず、なぜ政治はしっかりと応えようとしなかったのか、あるいはできないのかといった分析を行った。 ケアの倫理をめぐっては、政治的原理の一つとしての正義、つまり普遍的で不偏の公正原理に対して、文脈依存的で偏狭のきらいがあると批判されてきたが、むしろ文脈に分け入り、個別の事例に柔軟に対応することが、現実の政治では求められていることも確認できた。その途上で、フェミニスト経済学におけるケア経済概念の発展を学んだ。フェミニスト経済学の蓄積のうえに、無償、あるいは低賃金でケアを担う者が被る搾取と、ケア労働の報酬の少なさと社会的価値づけの低さゆえ被る、政治的交渉力のなさといったペア・ペナルティの実態を分析できたことは今年度の収穫であった。 ケアを担う者が、労働市場と性別分業の固定化ゆえに、女性に特化されるなかで、女性たちが政治的に不利な立場に陥り、それは民主主義の理念からは正されるべき状況であることを明示することができた。そして、研究に基づいた社会活動(講演)をし続け、介護、保育、医療関係者から実態を聞き取る機会も得ることができた。 また、ケア不足は新自由主義の下で生じている世界的な危機であることを、『ケア宣言』を翻訳・公刊することによって、学術的にも社会的にも貢献できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
コロナウィルス・パンデミックのなかで、ケア不足が生じている社会的文脈と、なぜケアが最も必要とされる状況でもなお、ケア不足が解消されないのかといった政治的意味を考察することができた。ケアに関するグローバルな現象に関する書籍の翻訳、また、ケアに対する社会的な関心に対しても、政治学的に応答できた。
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Strategy for Future Research Activity |
3年間の研究を活かし、ケアの倫理をフェミニズム理論の文脈に位置づけた概説書を完成させる。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス・パンデミックにより、当初計画していた国際会議への参加・報告ができなくなったため。
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