2019 Fiscal Year Research-status Report
熱散漫散乱解析型中性子透過イメージングによる高汎用性サーマル・トモグラフィの実現
Project/Area Number |
19K12641
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
佐藤 博隆 北海道大学, 工学研究院, 助教 (30610779)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 加速器 / 冷中性子 / イメージング / 非弾性散乱 / 熱散漫散乱 / 温度 / ダイナミクス / 原子変位パラメーター |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、エネルギー分析型中性子イメージングで得られる冷中性子透過率スペクトルの熱散漫散乱による変化を利用し、物質中の温度情報や原子ダイナミクス情報をイメージングする新しい手法の開発に取り組むものである。まず、温度・ダイナミクス評価のために、これまでブラッグ散乱(回折)ならびに結晶組織構造情報を評価することに用いられてきた中性子透過率スペクトル解析プログラム「RITS」を転用することを考えた。室温以上の高温域の中性子透過率スペクトルを、英国ラザフォード・アップルトン研究所ISIS施設との協力により実験的に測定した。スペクトルをRITSにより解析し、試料の温度が評価できるかを調べた。解析では、温度変化により大きな結晶組織変化を比較的起こさなかったα-Feのスペクトルを解析した。まず、試料温度をRITSで設定し、スペクトルフィッティングを試みた。その結果、室温から高温になるに従って、RITSのスペクトル計算結果は実験結果を徐々に再現しなくなることがわかった。これは、RITSで試料温度を導出できないことを示している。次に、RITSでは、温度からデバイモデルを用いて原子変位パラメーター(デバイ-ワラー因子ならびにφ1φ3)を計算し、その原子変位パラメーターから干渉性弾性散乱断面積や非弾性散乱等熱散漫散乱断面積を計算していることに注目した。干渉性弾性散乱断面積の実験値からデバイ-ワラー因子をRITSで求めた。そして、この精密化されたデバイ-ワラー因子を用いて熱散漫散乱断面積を計算すると、実験値を従来よりも再現することを見い出した。さらに、低エネルギーの中性子透過率スペクトル(主に熱散漫散乱断面積からなる)の実験値をRITSで解析しφ1φ3を精密化すると、高エネルギー側の干渉性弾性散乱断面積も含む中性子透過率スペクトルの実験値をさらに再現することを見い出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、当初の計画以上に進展している側面と、やや遅れている側面の両側面が生じている。後者は目標の1つである「温度測定」ができていない点である。一方、物質温度の根源である「原子ダイナミクス」については、「当初の計画以上に進展している側面」に該当する。「研究実績の概要」でも述べたが、RITSによる原子変位パラメーター(デバイ-ワラー因子ならびにφ1φ3)解析については、干渉性弾性散乱断面積ならびに熱散漫散乱断面積の両者の値を矛盾なく説明できており、原子変位パラメーター(デバイ-ワラー因子ならびにφ1φ3)の測定はできていると考えられる。このような「原子ダイナミクスイメージング」という新しい測定手法の開発に踏み込んでいることは、本研究による重要な進展であると考えられる。また、これまで検証が進んでこなかったRITSプログラムの非弾性散乱の計算部に関する研究が進んでいることも重要な点であると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
・温度測定のためには、温度と原子変位パラメーター(デバイ-ワラー因子ならびにφ1φ3)の間の計算過程の見直しが必要である。 ・原子変位パラメーター(デバイ-ワラー因子ならびにφ1φ3)が正しく評価できているかどうかについては追試が必要である。 ・低温域に関しても調査することが重要である。低温域では、高温域と異なり、温度導出が成功する可能性があるため、当初予定よりも調査範囲を広げることを考えている。(室温解析ができていることから期待される。) ・イメージングならびに複数物質が混在している条件に関する検討。 ・マルチモーダル中性子サーモメトリーの検討。
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Causes of Carryover |
最初の実験データを解析した際に、RITSによる温度導出が簡単にはできないことを考慮した。すなわち、実験よりも、データ解析や計算を重視した研究に重点を置いたため、実験に関するハードウェア整備を予定よりも進めなかったことが理由である。ハードウェア整備は次年度に順延することとしたため、次年度使用額はその点に主に使用する予定である。
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