2021 Fiscal Year Research-status Report
超高圧下中性子回折・電気分極同時測定法の開発と強相関遷移金属酸化物への応用
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19K12646
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Research Institution | Japan Atomic Energy Agency |
Principal Investigator |
長壁 豊隆 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 物質科学研究センター, 研究主席 (80354900)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 高圧力 / 中性子回折 / 電気分極 / マルチフェロイクス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、10GPa級の超高圧下で単結晶中性子回折(構造、磁性)と電気分極を同時測定するための技術の確立を目的とする。さらに、省エネルギー記録素子等の機能性材料としての応用も期待されているMn系マルチフェロイック物質にこれを応用する。未知の圧力誘起強誘電強磁性相を創生し、電気磁気交差相関性を精密に検証することを目指す。 超高圧下単結晶中性子回折実験については、JRR-3の三軸型中性子分光器を使用する計画であるが、JRR-3は令和3年7月に10年ぶりのビーム供用運転が再開された。令和3年度は4サイクル運転であったが、1、2サイクルでJRR-3ビームホールT2-4ビームポートに設置された三軸型中性子分光器TAS-2の整備や調整を進め、3サイクル以降で通常の中性子散乱実験が可能な状態となった。特に、スキャン可能な4象限電動スリットの導入など、超高圧下実験に用いる微小試料に対するS/N比向上のためのTAS-2高度化を進めた。 超高圧下単結晶中性子回折実験は、代表者が開発した中性子回折用対向ハイブリッドアンビル式高圧セル(HAC)を用いる計画である。本研究対象試料であるマルチフェロイック物質TbMn2O5について、本格的な高圧下磁気回折実験に先立ち、HACで利用可能な約0.6mm×0.6mm×厚さ0.2mmの微小単結晶試料を用いた常圧下での強度試験測定を実施した。その結果、中間温度CM相の(1/2,0,1/4)および最低温度LT-ICM相の(1-qx,0,1-qz)=(0.49,0,0.672)において、明瞭な磁気反射プロファイルやその強度の温度依存性の観測に成功した。但し、散乱ベクトルQの小さい等価な逆格子点ではS/N比が悪化するなど、空気散乱も含めたBG対策が重要であることが判明し、直径を拡大した冷凍機OVCの準備や試料下流のダイレクトビームに対する遮蔽強化を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
5.研究実績の概要のとおり、マルチフェロイック物質TbMn2O5について、HACにセット可能なサイズの微小単結晶について、令和3年度にビーム供用運転が再開したJRR-3の三軸型中性子分光器TAS-2を用いた常圧下での明瞭な磁気反射シグナルの観測に成功した。 一方、同サイズの単結晶試料について焦電法で電気分極シグナルが十分に得られるかどうかを確認するため、試料両面に電極を形成するなどの測定準備をした。令和3年度中に研究協力者が所有する電気分極測定装置を用い、まずは常圧下でテスト測定を実施する予定であったが、新型コロナウイルス感染拡大や宮城県沖地震の影響を受けて、令和3年度末時点で未測定となっているため、当初計画に比べて遅れが生じている。測定環境が整い次第、テスト測定を実施する。
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Strategy for Future Research Activity |
令和4年度中に、HACを用いた中性子回折実験によりTbMn2O5の磁気反射の圧力・温度依存性を調べることで、まずは圧力-温度磁気相図の全体像を明らかにする。同時に、常圧下でHACサイズの微小試料の電気分極シグナル観測に成功し次第、前年度に開発した本複合絶縁ガスケットをHACに適用して高圧下電気分極の測定を進める。これらを通じてTbMn2O5について未知の圧力誘起強誘電強磁性相を含む圧力-温度相図の全体像を明らかにし、この物質の磁気構造と電気分極の相関を調べる。 また、上記の高圧下電気分極測定技術開発に資する技術として、HACを用いた高圧下電気抵抗測定技術の開発と応用も進めている。Pr充填スクッテルダイトへの応用において、過去の高圧下中性子回折実験の結果と合わせることで、同物質が圧力下で磁気秩序を示す近藤絶縁体であることが明らかとなり、この成果を"Unusual Electronic State of PrFe4P12 Studied by High-pressure Neutron Diffraction and Resisitivity Measurement under Same Pressurized Conditions", T.Osakabe et al.としてまとめ、R4年度中に投稿予定である。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、7.現在までの進捗状況で示した様に、研究協力者が所有する電気分極測定装置を用いてマルチフェロイクス物質TbMn2O5について、HACの試料サイスでのシグナルの確認をする予定であったが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響を受け、出張することができなかったことから、出張に係る費用が未使用となったため、次年度使用額が生じることとなった。 令和4年度以降の使用計画としては、上記試験測定を改めて実施するための出張に係る費用、JRR-3での高圧下中性子回折実験を実施するためのHACに関する消耗品の購入に係る費用及び同時測定用電気分極測定システムを構築するために必要な機器の購入に係る費用として使用する。
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