2020 Fiscal Year Research-status Report
X線ピンホールカメラによる高輝度放射光X線ビームプロファイルの可視化
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19K12654
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Research Institution | Japan Synchrotron Radiation Research Institute |
Principal Investigator |
工藤 統吾 公益財団法人高輝度光科学研究センター, 情報処理推進室, 主幹研究員 (40372148)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
高橋 直 公益財団法人高輝度光科学研究センター, 光源基盤部門, 主幹研究員 (60426525)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 放射光 / ビームモニター / エネルギー分解 / CVDダイヤモンド / ピンホールカメラ / CMOSカメラ / アンジュレータ / X線 |
Outline of Annual Research Achievements |
高輝度放射光X線ビーム光軸の直接計測は、回折限界ビームを用いる将来の放射光科学で要求される高いビーム安定度の実現に必須の課題であり、これまで実現されていない未踏の領域である。我々は、従来に無いエネルギー分解型のビームモニターを提案し、この問題の解決にむけて取り組んでいる。 昨年度は原理検証として、本方式が高輝度放射光X線ビーム光軸を可視化できることを示した。今年度は、専用真空チャンバーを開発し、実用化に向けた試験を行った。このチャンバーは、水冷式のCVDダイヤモンド薄膜(t=30um)をアンジュレータ光軸に垂直に挿入する配置とし、ダイヤモンド薄膜上のビーム入射点を前方散乱30度上方向からピンホールカメラで見るように設計した。 この配置は、ビームラインにおける機器配置の制限を踏まえた上で、コンプトン波長のずれを抑える現実的な解である。昨年度の原理検証で採用した横方向の60度上方からの観測に比較して、散乱強度が格段に上がるため、タングステンピンホールサイズをφ10 um(t=500 um)まで縮小した。実用化を想定して、検出素子をフレームレートの低いCCDカメラから高速のCMOSカメラへ移行した。具体的なカメラとしては直接検出型CMOSカメラであるSOPHIASを導入し、フレームレートを2 fpsから30 fpsへ向上させた。 この新しい実験装置により、格段に明るい画像として、放射光X線ビームスポットの取得に成功した。光子スポットをエネルギー弁別積算したところ、対応するエネルギー範囲に応じてビームスポットの形状が変化することを確認した。1次光ピークを強調するエネルギー弁別では光軸中心にまとまった画像を得た。低エネルギー側の弁別では、シミュレーションで予想されていたとおりの上下に開裂するビームスポット画像を得た。これらの成果につき日本放射光学会での発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画で提唱した方法により昨年度放射光X線ビームのエネルギー弁別を伴う可視化に成功し、この成果を論文掲載まで進めることができ、次のステップとして実用化に取り組んでいる。 ビーム安定性をリアルタイムに診断するモニターとしての実用にあたっては高速計測が重要となる。このためにはダイヤモンド薄膜からの散乱強度が大きいほうが有利である。我々は、放射光X線ビームが直線偏光であることを考慮し、散乱強度が高い方向を見るとともに、コンプトン効果によるエネルギーずれの問題に対処できる角度配置のピンホールカメラを開発して、試験に取り組んでいる。 現在、一つの問題につきあたっている。これまで、既存の2次元検出器によりエネルギー弁別を行うために、1画素1光子入射条件を得やすい条件(ビーム強度を弱める)を光源側の調整で成立させてきた。しかし実用化に向けては、実際の放射光利用実験の高輝度光に対応する必要がある。しかしそうすると、現状導入しているCMOSカメラ(SOPHIAS)のフレームレートでは1光子/画素の条件が成立させにくくなる。この点は、上述の大きな散乱強度を得るための努力と矛盾する点でもある。 このため超高速フレームレートの検出器を探索し導入準備を進めなければならない。一方、現状の検出器の性能で、高輝度放射光が観測できる条件をさぐるために、回転式スリットをピンホール直近に配置して、散乱X線強度を調節するという方式も検討している。これらの課題をクリア―する必要があるが、原理的な問題点は把握しており、概ね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本モニターの実用化のポイントは、高強度の散乱光をエネルギー弁別できる条件を見出すことにある。そのための検出器のフレームレートの向上が必須である。超高速のエネルギー分解能を有する画像検出器の探索をより強力にすすめていく。 更に、ピンホール径の工夫により検出器が受ける光子数を、実用的な計測速度を保ちつつエネルギー弁別可能な条件まで減らすことが求められる。ピンホールカメラとしての構成の容易さなどの理由から、これまでテーパー構造を有するピンホールを採用してきた。これは、中心部にいくに従って材料が薄くなり、X線の遮蔽能力が下がってくるので、等価的に口径が大きくなる。ゆえに、位置分解能の低下と、不必要な散乱強度の増大をもたらす。我々は、新しい方針として、ピンホールカメラの視野を最小限必要に絞らることを許容したうえで、口径×穴深のアスペクト比の高いピンホールを開発する。これにより、検出器に要求されるフレームレートの要求水準を下げることができ、導入する検出器のコスト面や入手性の問題を解決する糸口とする。 さらに、回転スリットの検討を続行し、現状の検出器で、本ビームモニターを構成する方法について探る。
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Causes of Carryover |
研究計画にもとづき、ほぼ予定の金額を執行したが、少額の端数が出たので次年度使用額とする。使用計画としては、少額であるので、変更なく計画にもとづいてすすめる。
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