2020 Fiscal Year Research-status Report
On the Method to Set of the Evacuation Route based on the Relationship between the Spatial Elements and Perceptual of Children
Project/Area Number |
19K12670
|
Research Institution | Osaka Institute of Technology |
Principal Investigator |
田中 一成 大阪工業大学, 工学部, 教授 (10330789)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 認知 / ゆがみ / 児童 / 災害 / 避難 / GIS / イメージマップ |
Outline of Annual Research Achievements |
近年,わが国では異常気象や地震・津波,さらには大規模な噴火等による災害が頻発し,このコロナ禍の中において大規模地震の発生も懸念されている。このような多様災害から住民ひとりひとりが命と生活を守るため,正確な情報に基づいた避難可能な環境の整備が求められている。一方,我々が暮らす街では,日常的に利用する街路や友人の多い街路などは近く感じることが多く,逆に寂しく暗い街路,初めて通る道などは長く遠く感じることが多い。これは,認知空間における心理的距離と呼ばれるが,特にパニック時における避難の際に大きな影響があると考えられる。 本研究では,都市居住者の認知空間を認知マップとして取り出し,距離感に影響を与える要素について抽出し統計的に分析することで,居住者が認知するまちの姿と現実空間の「ゆがみ」を抽出することを目的としている。最終的には,このゆがみをもとに災害時の避難経路と避難場所の設定手法を提案していく。 研究は,年齢による発達段階を考慮して児童を対象としたアンケート調査(認知マップ調査)によりゆがみを抽出する方法を用いている。2019年度は,大阪府内の児童を対象として予備実験を行い,この結果をもとに対象地区の児童,約200名を対象として調査行った。分析可能なサンプルについて,描画要素の種類とこれらの色彩による差異,地区別の差異を集計するとともに,各個人の通学路と認知マップとGIS上の地図との割合の差異から,一部のサンプルについてゆがみを定量的に抽出した。この結果,自宅近辺など愛着度が高いとみられる地区,長く感じられる路線などを抽出した。2020年度は,得られた調査データを基に,現場空間との関係についてGIS(地理空間情報システム)を用いた分析を行った。特に,色彩に表現された認知空間評価,志向性についての分析を行っている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2019年度夏期に予備調査にもとづいて調査設計を行い,12月にアンケート調査(認知マップ)を実施した。その結果,約200件の調査データを得ることができた。このため,データ取得に際しては時期的に新型コロナウィルスによる影響を受けず,その後入力・分析には時間がかかってはいるものの,分析・解析段階へと進んだ。 2020年度は分析を行うにあたり,認知マップと現場との関係を調査してきたが,コロナ禍により現場の協力が得られず充分な調査時間を確保することができなかった。検証方法等を試行のうえ,特に色彩について分析方法を見直し,避難経路設定に結びつく認知空間と志向性に関する分析を行った。
|
Strategy for Future Research Activity |
2021年度は最終年度となるが,2019年度の調査・分析により得られた結果をもとに,GISを用いて対象地区である認知空間の構造を把握する。また,心理空間内の空間形状や色彩に着目し認知空間の構造を把握する。これらの結果を合わせみることで,最終的に,認知空間と現実空間とのゆがみを把握する。 調査では,身近にあっても交通量の多い道路について認知空間としてその存在は大きく,これを横断する避難経路は課題がある可能性が導かれた。また,住宅地区からは大型商業施設,中心市街地では近隣の歴史的商店街への心理的な愛着,行きやすさが抽出されている。さらに,オープンスペースは抽象化され,農地や施設用地内の空き地と異なるイメージ形成の可能性があり,これまでこの考察を充分検証することができていない。 2021年度はこれらの結果をふまえ,また昨年度コロナ禍により実現できなかった2次調査(主に現地調査・物理量調査)について実現,あるいは異なる手法を用い,最終的な避難経路を検討する。 これまで学会(オンライン)の議論では,空間の歪みについて,またさまざまな避難経路の可能性について統計的に有為な結果に至っていないこと等が課題としてとりあげられ,これらについて調査で得られた多くのサンプルによって記述する手法を用いて説明力を高めることが必要である。これにより,サンプルの性格から具体的な提案に結びつく可能性がある。この成果は,新たな避難経路や避難場所の設定,あるいは既にある経路の評価に寄与する可能性があることを示す。
|
Causes of Carryover |
当該年度,新型コロナウィルスによる研究活動への制約から,十分な分析,解析へ向けた機材,ソフトウェア等の調整には至っておらず,分析も大量のサンプルの一部にとどまり,追加現地調査も実施できていない。今後は,調査・分析方法を再検討のうえ,有効なサンプルに対して新たな分析手法を用いることで説明可能な統計量を確保する。同時に,学会等において積極的な発表を行い,研究進展に向けた議論を行う必要がある。
|