2020 Fiscal Year Research-status Report
ハトをモデルとする「双頭の鷲」型視覚システムの認知処理特性の解明
Project/Area Number |
19K12726
|
Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
牛谷 智一 千葉大学, 大学院人文科学研究院, 准教授 (20400806)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 完全視交叉 / 空間的注意 / 比較認知 / 運動知覚 / 種間比較 / ハト / 視覚情報処理 |
Outline of Annual Research Achievements |
頭部左右側面に眼があるハトは,それぞれの情報が100%反対側の脳に投射される完全視交叉であるため,いわば「双頭の鷲」のように左右を向いた別々の視覚システムがあるようなものである。本研究課題では,側方に2システムを併存させるハトの情報処理にどのような特性があるか調べる。特に,左右両眼は各々独立した注意資源を持ち,複数の物体に注意を向けることができるか,あるいは逆に,左右両眼が統一的なパノラマ視野を形成しているか調べる。 今年度の実績の中心は,複数の運動刺激が提示される条件下で,標的を追跡させた実験に関するものである。左右両半視野に各々提示されたオブジェクトの一方の輪郭が赤く点滅し,その後双方同色になって運動した。各々視野をまたいで反対側に移動する通過条件と,中央で反転し,運動開始と同側に戻る衝突条件があり,いずれも運動開始時に点滅した標的に反応すると報酬が与えられた。訓練後,両オブジェクトが中央で重なる条件でテストしたところハトは,これを通過条件であるかのように報告した。この結果は,チンパンジーを用いた先行研究とは異なっており,ヒトをテストした際と同じ反応が得られたことを示している。両半視野にまたがる範囲を移動するオブジェクトへの継続的な注意が,ハトにおいても示唆された。 この実験以外にも,両半視野にまたがる対象に対する注意の敷衍について実験を実施し,成果が得られた。大きさの錯視を利用したテストでは,テスト試行で新奇に出現した,離れた位置のフランカーの大きさに同化する形で中央の図形の大きさをハトが認識したことを示唆する結果が得られた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題では,側方に2つの視覚システムを併存させるシステムが認知処理上どのような特性があるか調べた。特に,左右両眼は各々独立した注意資源を持ち,複数の物体に注意を向けることができるか(仮説1),逆に,左右両眼は,統一的なパノラマ視野を形成しているか(仮説2),検討した。 仮説1の検討のため,左右両眼に別々の映像を見せる装置の開発を進めている。また,この装置開発と並行して,ハトの空間的注意を調べるための実験を実施した。左右両半視野に各々提示されたオブジェクトの一方の輪郭が赤く点滅し,その後双方同色になって運動した。各々視野をまたいで反対側に移動する通過条件と,中央で反転し,運動開始と同側に戻る衝突条件があり,いずれも運動開始時に点滅した標的に反応すると報酬が与えられた。訓練の最初は,標的は運動の最後まで輪郭が赤いままで,それを手がかりに反応することができた。訓練が進むにつれ,試行内で輪郭の色が徐々にフェードアウトするようにした。訓練後,両オブジェクトが中央で重なる条件でテストしたところハトは,これを通過条件であるかのように報告し,ヒトとの共通性が示唆された。これは,同様のテストで衝突条件であるかのように報告するチンパンジーの先行研究とは異なる結果である。ハトとチンパンジーは,ともに部分を優先する注意傾向が知られているため,両種の違いは,本実験では標的を示す輪郭の色手がかりが比較的長時間呈示されていることに依拠している可能性があり,すなわち,この課題の弁別が,空間的注意の維持と密接に関連していることを示唆している。 仮説2の検討のため,ゴール探索課題を採用した。左右両眼視野にわたる統一的なパノラマを形成しているか検討するため,両視野にまたがる広い範囲に置かれたランドマークに対してどのようにアクセスしているか解析を進めた。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究課題では,側方に2つの視覚システムを併存させるシステムが認知処理上どのような特性があるか調べる。特に,左右両眼は各々独立した注意資源を持ち,複数の物体に注意を向けることができるか,逆に,左右両眼は,統一的なパノラマ視野を形成しているか検討する。 仮説1の検討のため,両半視野にまたがって呈示された刺激の認識における注意の役割についてこれまでの2年間で明らかになったことに基づき,左右両眼に別々の映像を見せるための装置開発が完了次第,左右両眼が各々独立した注意資源を持つかテストする 仮説2の検討のため,ゴール探索課題を使う。餌容器を多数並べ,そのうちの1つに餌を隠し,複数のランドマークセットを使って,餌を探し当てるよう訓練する。ランドマークによって与えられる一部の情報を変形させ,どのような手がかりを使ってゴールにたどり着くか,またその際,両半視野にまたがる情報をどのように使用するか調べる。
|
Causes of Carryover |
新型コロナウイルス禍のため,成果公開のための研究集会がオンライン開催となった。コロナ禍が終息次第,研究集会または打ち合わせのため,旅費を使用する。
|
Research Products
(3 results)