2021 Fiscal Year Research-status Report
視覚野機能構築が生成する神経細胞活動の動的特性と文脈効果
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19K12743
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Research Institution | National Institute of Technology(KOSEN),Numazu College |
Principal Investigator |
宮下 真信 沼津工業高等専門学校, 制御情報工学科, 教授 (20443038)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田中 繁 電気通信大学, 脳・医工学研究センター, 特任教授 (70281706)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 文脈依存応答 / 自己組織化数理モデル / スパイク放電型神経モデル / 有棘型星状細胞 / 無棘型星状細胞 / 単純型細胞 / 長距離水平結合 / 方位マップ |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度までに、外側膝状体(LGN)-視覚野(V1野)入力層間の神経ネットワークの自己組織化数理モデルによって得られた神経経路に、モデル視野上に運動するグレーティングパターン刺激を与えたときに、古典的受容野(CRF)の周辺領域に提示する刺激がCRF細胞の活動に与える影響について研究を進めてきた。この研究を推進する中で、CRF細胞がもつ最適刺激方向と直交する刺激を与えたときにも細胞の膜電位の上昇が起こり、これが文脈依存の刺激に対する応答特性にも影響することが分かった。また、LGN-V1野間の無棘細胞にも有棘の単純型細胞と同様の結合があることを仮定したが、生理実験では無棘細胞は方位選択性に乏しいことが報告されている。本研究では、方位選択性の低い無棘型細胞からの抑制性入力が有棘細胞にあるため、最適方位と直行する刺激に対して膜電位の上昇が起こらないと予測した。 本年度は、自己組織化数理モデルの視覚野細胞について、発火頻度の平均値が静止電位に相当すると仮定して、無棘型細胞から有棘型細胞への抑制性入力を導入した自己組織化数理モデルを構築し直した。さらに、従来の自己組織化数理モデルでは、モデル視覚野細胞のシナプス数は生後発達で変化しないと仮定してきたが、実際には生後発達期にシナプス結合数は一旦上昇し、その後単調減少する過程で、不要なシナプス結合が除去されると考えられている(Bullier et al. 1979)。そこで、モデルV1野の細胞ではシナプス結合をし得るスパイン数が変化する(スパイン間の距離が変化する)ことを表現できるように、自己組織化数理モデルを大幅に改変した。この新規モデルを使ってモデルLGN-V1野間の神経結合の自己組織化シミュレーションを実行し、受容野と方位マップの構造を再現した。また、モンテカルロ・ステップに対するシナプス数の変化は、生理実験と整合する結果が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究では、文脈依存の視覚刺激を与えたときに、ネコやサルのような規則的な方位表現とげっ歯類動物に見られるsalt & pepper状の方位表現での応答の違いを神経ダイナミクスの数理モデルによって解き明かすことを目的としている。この応答の違いを調べるにあたり、最適方位と直交する方位刺激に対しては、膜電位が上昇しないないことが重要なことが分かった。これは、主に無棘型の抑制性細胞の働きを神経ダイナミクスのモデルに取り入れる必要がある。この際、方位マップの構造や受容野の自己組織化数理モデルとの整合性を考慮するために、自己組織化数理モデル自体を精緻化する必要が生じたことから遅れを生じた。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに、モデルLGN-V1野間の神経ネットワークの自己組織化数理モデルを精緻化し、無棘型の抑制性細胞から有棘型の興奮性細胞への刺激方位に依存しない抑制性作用を仮定することで、規則的な方位マップを再現した。このモデルでは、単純型細胞の受容野も最適方位の軸方向に従来モデルよりも伸びる傾向が見られ、方位選択性が高いことが分かった。 この新規な自己組織化数理モデルによって得られた神経ネットワークに基づいて、さらに方位選択性の低い無棘型の抑制性細胞から有棘型の単純型細胞への抑制性入力を仮定した神経ダイナミクスのモデルを構築する。初めに、モデルLGN-無棘型の細胞間にはレチノトピーを保存したラフな結合が存在すると仮定して、無棘型細胞の応答を再現する。その後、最適方位と直交する方位の視覚刺激に対して有棘型の細胞の膜電位が上昇しなくなるように、無棘型の神経細胞からの抑制強度のパラメータを調整する。その条件下において、古典的受容野(CRF)のみに視覚刺激が与えられたときの刺激応答特性を再現する。また、CRFの周辺に0-360°の間の刺激が与えられたときのCRF細胞の応答特性、文脈依存性について研究を進めていく。さらに、新規な自己組織化数理モデルによって、げっ歯類動物に見られるsalt & pepper状の方位マップを再現し、同様の刺激によってCRF周辺領域への視覚刺激が細胞応答に与える影響を調べていく。これらの結果から、方位表現という構造と視覚情報処理という機能との関係を研究していく。
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Causes of Carryover |
コロナ禍の影響によって、米国で開催される国際会議が中止となり、渡航費用が発生しなかったこと、国内学会もリモートで開催されたので、発表を中止したことが主な理由である。また、自己組織化数理モデルを精緻化とシミュレーションによる検証を研究の主眼としたためである。2021年度で研究分担者が定年退職したが、研究協力者として引き続き自己組織化数理モデルの精緻化等、本研究を推進するための共同研究をおこなう予定である。このため、研究を推進するための高度な研究業務に対する費用に使用する。
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