2019 Fiscal Year Research-status Report
Development of sample preparation for single cell 3D mass spectrometry imaging
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19K12754
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Research Institution | National Institute of Genetics |
Principal Investigator |
正木 紀隆 国立遺伝学研究所, 遺伝メカニズム研究系, 特任研究員 (80614073)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | イオン化効率 / 細胞形態 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究計画では従来のTOF-SIMS測定では脱落してしまっていた細胞内生体分子の3次元分布を「生きた」状態に近い形で可視化することを目的としている。そのために同じ真空測定である電子顕微鏡用の固定法のTOF-SIMS用への改良と、MALDI-MSIで開発したイオン化向上前処理のTOF-SIMSへの応用を実現する。最終的にはこれらを組み合わせてこれまでTOF-SIMSで検出できなかった細胞内構造をとらえることを目指す。 令和元年度は細胞の固定法の開発を予定しており、3T3-L1細胞にたいしてグルタアルデヒド固定の条件を検討していた。しかし、研究代表者が6月より浜松医科大学から国立遺伝学研究所へ異動したことに伴い、想定していた浜松医科大学の電子顕微鏡設備の利用が困難となった。さらには細胞の培養環境を新たに構築する必要性も生じた。そのため、培養した3T3-L1細胞をもちいたTOF-SIMSとSEMの同一試料測定をおこない脂肪滴に由来する分子の検出とイオン像とSEM像の比較という、当初の予定を次年度のイオン化向上前処理の開発と入れ替えた。 異動前にグルタアルデヒド固定をした3T3-L1細胞の作成までは進めることができていたため、これと未固定の細胞に対して硫酸アンモニウム処理を試した。名古屋工業大学のulvac-phi社製TOF-SIMS装置を用いて測定をしてもらったところ、硫酸アンモニウム処理によって生体分子に由来するイオンがプロトン付加体に統一することができ、想定する成果を得ることに成功した。さらにはイオン化効率そのものを高めることが可能となり、期待以上の結果をえることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画していた3つの研究項目のうちイオン化向上前処理の開発を達成することができたため、研究計画全体のうちの進捗状況としては順調であると考えている。硫酸アンモニウム処理によるイオン化の改善がその濃度に大きく依存することを懸念し、脂質標品や細胞をペースト化した試料をもちいた濃度の最適化も検討していた。しかし、マトリクス支援脱離イオン化法とほぼ同じ条件で成功したことから、実用的に制御可能な濃度範囲での濃度依存性は見られなかったと判断し、これらは省略した。 もう一つの研究項目である細胞の固定法の検討についても、グルタアルデヒド固定については使用濃度をある程度まで絞り込めている。これは光学顕微鏡下で未固定細胞やエタノールをもちいた脱水固定と比較することによって行った。残された課題は、絞り込まれた条件に対して走査型電子顕微鏡測定を行うことで超微形態が保持されているのかを確認することである。しかし、研究代表者の異動のため研究実施場所が変更になり、細胞の培養設備、浜松医科大学の電子顕微鏡施設利用という二点で問題が生じている。そのためこの研究項目については一時休止して、イオン化向上のための前処理法開発を前倒しすることで本研究課題の1/3を進めることに成功したため、全体の進捗状況としては影響していないと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
令和2年度は細胞の固定法確立を主に進める。その際にネックになるのは細胞培養環境の構築と電子顕微鏡用試料の前処理用装置の使用である。細胞培養についてはクリーンベンチはすでにあるためCO2インキュベータを導入すれば環境は整備される。もしくは異動前に在籍していた浜松医科大学の岡崎先生の研究室で引き続き培養を行わせていただくことも考えている。別の手段として、質量分析イメージングの試料としてよく利用される新鮮凍結マウス脳で代替することも考えている。 走査型電子顕微鏡およびその前処理設備については、岡崎先生との共同研究として浜松医科大学の装置を外部利用することを計画している。この場合、当初予定していたよりも利用料が高額になることもあり、代替案としてABiSを利用して岡崎の生理研の装置をもちいた測定に切り替えることも考えている。 また、TOF-SIMS測定についても引き続き名古屋工業大学の装置を外部利用させていただき、ガスクラスターイオン銃を用いたスパッターと組み合わせた測定を行うことも予定している。
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Causes of Carryover |
TOF-SIMS測定の実施が一回だけであったことが主な理由である。これにともない、当初予定していた試料のスパッター(切削)にもちいるガスクラスターイオン銃の使用料およびその調整のために先行研究での共同研究者への謝金として計上していた額を次年度に持ち越す必要が生じた。これは名古屋工業大学のTOF-SIMS装置での生体材料の測定実績が少なく、本研究課題の試料を測定することで生じるトラブルが懸念されたことが原因である。これを解消するためには試料および前処理用に塗布した硫酸アンモニウムが揮発、もしくは自然に脱離することによる真空度の汚染(低下)がないことを確認しなければならなかった。真空度の汚染は計器の異常や高電圧印加時に装置に多大な損傷を与えてしまうからである。これについては高~中真空条件を作り出す下処理用設備を構築し、これをもちいて前日に試料を一日真空処理することで装置の使用を承認していただくことができた。そのため、令和2年度に持ち越した額については、主としてガスクラスターイオン銃をもちいたスパッターと組み合わせた測定の費用、および謝金として使用することを計画している。また、細胞培養環境の整備など試料作製に必要な物品やデータ解析ソフトに割り当てることも予定している。
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