2021 Fiscal Year Research-status Report
Development of sample preparation for single cell 3D mass spectrometry imaging
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19K12754
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Research Institution | National Institute of Genetics |
Principal Investigator |
正木 紀隆 国立遺伝学研究所, 遺伝メカニズム研究系, 特任研究員 (80614073)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 質量分析 / 質量分析イメージング / 脂質分析 / トリアシルグリセロール / 脂肪滴 / 脂肪酸 / イオン化効率 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究計画では従来のTOF-SIMS測定では脱落してしまっていた細胞内生体分子の三次元分布を「生きた」状態に近い形で可視化することを目的としている。そのために同じ真空測定である電子顕微鏡用の固定法のTOF-SIMS用への改良と、MALDI-MSIで開発したイオン化向上のための前処理のTOF-SIMSへの応用を実現する。最終的にはこれらを組み合わせてこれまでTOF-SIMSで検出できなかった細胞内構造をとらえることを目指す。 令和3年度では前年度までに確立した、組織固定・イオン化効率向上のための前処理法を施した3T3-L1脂肪細胞の脂肪滴に対しTOF-SIMS測定を試みた。ガスクラスターイオン銃によって表層を切削した後にTOF-SIMS測定を行い、前処理を施した細胞と未処理の細胞で得られたシグナルとその分布を比較した。前処理を施した細胞の測定結果では、脂肪滴様の像を描き出す脂肪酸シグナルを検出することに成功した。同様の脂肪酸は細胞膜や細胞質にも含まれているが、その空間分布や量は明らかに異なる。このことから脂肪滴内に存在するトリアシルグリセロール(TAG)由来の脂肪酸を検出することに成功したと考えている。また、未処理の細胞からもTAG由来と予想される同じ脂肪酸シグナルは検出されたが、その分布は細胞の存在しないスライドガラス表面へのTAGの流出を示していた。このことから、電顕像の結果も踏まえ、本法によって脂肪滴構造を保持した状態でのTOF-SIMS分析に成功したことが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究課題の目的である脂肪滴由来のシグナルとその分布を検出することができたため、令和3年度に計画していた最低限の測定を完了することには成功している。しかし、度重なるコロナ禍と装置トラブルによる測定の延期により、測定を行うことができたのはわずか一回であった。その一回で年度内に計画していたすべての項目を検討可能な測定を行ったため、個々の測定としては十分な時間をかけてシグナルを積算することができず、得られたデータの品質は論文化、知財化には不十分なものとなってしまった。加えて装置を利用した機関では普段生体試料を使用しないため、測定条件の決定や装置の調整に手間取ったこともその要因の一つである。得られたデータは本研究目的が達成されていることを定性的には示すには十分かもしれない。しかし、論文化、特許化のためには定量的な比較が可能なより高品質、高精度のデータが必要である。それを取り直す必要が残っているため、やや遅れているという評価とした。
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Strategy for Future Research Activity |
令和4年度では、令和3年度に実施予定であった研究項目である一細胞内三次元TOF-SIMSによる脂肪滴の測定を引き続き行う。具体的には、これまでに確立した細胞の固定法とイオン化効率を向上する前処理法を組み合わせることで、脂肪細胞に分化させた3T3-L1のTOF-SIMS解析をガスクラスターイオン銃をもちいた試料の切削と組み合わせて行う。令和3年度に行った測定により、定性的にはすでに目的が達成できていることが確認できている。今年度はそれを踏まえて論文化、特許化を目指し、より高精度なデータを取得し、定量的な比較、検証を行う。そのための予算は当初計画で計上されたものであり、前年度に予定通りに行うことができなかった測定分がそのまま残っているため予算面での問題はない。測定ができなかった理由は、コロナ禍による緊急事態宣言の発令のため測定を行う機関での受け入れが認められなかった時期があったことと、装置の故障、およびその修理に要した時間も長びいたことが挙げられる。これらの問題は、すでに多くの国民がワクチン接種により抗体を獲得している本年度では解消しており、計画した研究項目を検証可能なだけの測定を問題なく行うことが可能であると確信している。
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Causes of Carryover |
コロナ禍による感染者数の急激な増加に対する度重なる緊急事態宣言の発令、さらには装置の故障とその修理が長引いたことにより、当初計画していた回数のTOF-SIMS測定を行うことができなかったことが理由である。生じた次年度使用額は、ほとんどが当初令和3年度に計画していたTOF-SIMS測定を行うために計上したものである。令和4年度の研究計画は、それらの高精度のTOF-SIMS測定および三次元TOF-SIMS測定を行うことであり、測定試料の調整法はすでに確立できたものであることから研究計画上の変更はない。上述した次年度使用額が生じた理由についても、現状国民の多くが三回目ワクチン接種を終えて抗体を獲得しており、本年度の計画にはすでに支障を与えるものではなくなっている。そのため、本年度の計画は問題なく進めることが可能であると考えている。
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