2020 Fiscal Year Research-status Report
製造工程で利用可能なヒト多能性幹細胞における新規バイオマーカー技術の構築
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19K12755
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
川瀬 栄八郎 京都大学, ウイルス・再生医科学研究所, 特定講師 (70402790)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 再生医療 / 幹細胞 / 多能性幹細胞 / ヒトES細胞 / バイオマーカー |
Outline of Annual Research Achievements |
ヒトES細胞、ヒトiPS細胞などのヒト多能性幹細胞(以下、ヒトES細胞と略する)を用いた臨床研究が現在世界中で進められており、再生医療の発展が大きく期待されている。再生医療において実際に使用されるのは、ヒトES細胞自体ではなく、そこから分化誘導した神経細胞、心筋細胞、膵臓細胞などであるが、これら分化細胞の出発物としてのヒトES細胞の大量培養は不可欠であり、同時にその細胞の品質管理も行うことは重要である。 ヒトES細胞の品質評価としてその最終培養産物を用い、遺伝子発現、タンパク質発現、細胞表面抗原の発現、染色体の正常性などで評価を行うことが従来一般的に行われているが、いずれも細胞の一部を採取して行う破壊検査である。しかしながら、細胞の大量培養では最終生産物での評価だけではなく、製造工程でのリアルタイムモニタリングによる品質評価を行うことも非常に重視されているにも関わらず、現在ヒトES細胞が有する特性面を考慮した品質評価に関しては未だ行われていない。 本研究課題の目的は、ヒトES 細胞の大量製造工程で品質評価に利用可能な新規のバイオマーカー技術の構築であり、本研究課題によって効率的なヒトES細胞の拡大培養が発展するだけではなく、ヒトES細胞の有する新しい特性を見出し、さらにその細胞生物学的分子機構を解明していくことを目指している。 当該年度はコロナ禍で研究の進捗に制限がかかったころもあり、前年度に選定した候補分子から最有力分子一つを選抜し検討を進めた。まず候補分子が遺伝子発現だけではなくタンパク質発現においても未分化状態では高く、分化に伴い低下していることを確認した。さらにこの候補分子は培地中に分泌しており、細胞が未分化状態で培地中に多く存在していること、また分泌量を定量的に測定できる系を確立した。また候補分子の細胞生物学的機能を解析するための準備にも着手した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究計画では製造工程でヒトES細胞の特性に関する品質評価として利用可能なバイオマーカーの同定を目指すだけではなく、なぜそのバイオマーカーが有効なのか、その分子制御機構を解明し、ES細胞の特性に対して新たな知見を見出していくことである。 本年度はコロナ禍で実験に制限が生じたこともあり、前年度に見出した候補分子の中から一つを選定し解析を行った。まずヒトES細胞の未分化細胞と分化細胞でのタンパク質発現の細胞抽出液を用いウエスタンブロットにより検討を行った。前年度のRNAでの発現結果と同様にタンパク質発現でも未分化状態で非常に高いことが確認できた。次にこの候補分子は分泌分子であることから培地上清を用いELISAによる定量的な検出が可能かについて検討を行った。その結果、候補分子は未分化状態の培地上清で分化状態のものよりも数十倍以上多く存在する事を見出した。これらの結果、細胞の一部を回収し破壊して未分化状態を判定する従来のやり方と異なり、培地上清を回収し未分化状態を判定できるバイオマーカーとして利用できる可能性が見出された。 但し、今回開発したELISA法では以下のような改善点も見出した。(1)想定したよりも感度が十分ではない(現在の最小検出濃度は約10 pg/ml)、(2) 培地としては1種類しか使用しておらず他の培地でも適用可能か不明である(今回培地構成成分が最も簡素でであるE8培地を用いた)。培地にはELISAの測定値に影響を与える因子が含まれていることもあり、汎用性の高い他の数種類の培地で評価を行う必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度には細胞を直接回収することなく培地成分を分析することで未分化状態のバイオマーカーとなりうる候補分子を見出した。ただ前年度に用いたELISA法では (1)感度がまだ不十分なこと、(2)最も簡素な構成培地であるE8培地の結果であり、広く利用されている市販培地で利用可能かどうか不明という問題点がある。 今年度は前年度に開発したELISA法の改良とヒトES細胞の培養に汎用的に使われている複数の市販培地(StemFit, mTeSR1, StemFlexなど)で評価を行う。現在ELISA法よりも感度が高い方法がいくつか開発されているが(ProQuantumイムノアッセイ、Luminexアッセイなど)、いずれも高価であり、本研究での予算規模を踏まえELISA法を改良し感度を高めることを目指す。具体的にはELISAに用いる抗体の種類、プレートの素材、検出試薬などの検討を行う。 また候補分子が未分化状態のバイオマーカーと利用可能であってもその細胞生物学的、分子生物学的基盤はほぼ不明であることから、以下の検討を行う。(1) 候補分子のプロモーター解析:候補遺伝子のプロモーターのどの領域がセンサー的な役割を果たしているのか、またプロモーター領域にヒトES細胞の未分化維持に不可欠なOCT4, NANOG, SOX2などの結合部位がないのかなどについて検討する。(2)候補分子のヒトES細胞への未分化維持・増殖に対する役割:候補分子を培地に添加する、CrisperやshRNA (siRNAも含む)を用いて候補分子の下流分子の発現を抑制するなどを行い候補分子が未分化増殖や分化抑制に直接的に関与しているかなどを検討する。 さらに本年度が本研究課題の最終年度であり、学会や論文発表に必要なデータをできるだけそろえる。また産業財産権取得の可能性についても専門家と協議を行う。
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