2022 Fiscal Year Research-status Report
細胞運動の左右非対称性に起因した左右非対称な多細胞構造の形成
Project/Area Number |
19K12770
|
Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
早川 雅之 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, 研究員 (20803422)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 集団運動 / 自己組織化 / パターン形成 |
Outline of Annual Research Achievements |
我々は、細胞性粘菌変異株が左右非対称な多細胞構造を形成することを発見している。一方で先行研究により、細胞性粘菌の運動に必須な仮足が一定方向の回転を伴いながら形成され、それにより運動に左右非対称性が見られることがわかっている。本研究の目的は、個々の細胞にみられる運動の左右非対称性と多細胞構造にみられる左右非対称性をつなぐ原理の解明である。今までの研究により、左右非対称な多細胞構造は、(1)寒天培地上で細胞をバクテリアと共培養した場合、(2)バクテリアが存在しない無栄養寒天上に細胞塊を置いた場合、の2通りの場合で実現することがわかっている。特に(2)の場合、多細胞構造は、細胞塊を中心として放射状に伸び、右回り方向に進む複数の湾曲した粗密波によって構成される。バクテリアが存在せず細胞のイメージングが容易であることから、最近ではこの実験系(2)を中心に扱っている。2021年度では、細胞塊を長方形型に配置した場合、細胞塊から分離した細胞は、徐々に拡散し、また同時に長方形の長辺に垂直となるように粗密波を形成することがわかった。そこで2022年度では、長方形の長辺に垂直な粗密波を形成する各細胞はどのように運動しているのか、という疑問に答えるために顕微鏡観察を行った。その結果、細胞塊近傍に細胞の高密度領域が存在し、この高密度領域から突出するかたちで密度波が形成されていることがわかった。また、興味深いことに、高密度領域に存在する細胞の運動は、細胞塊から離れる方向への運動(拡散)に加えて、右方向への運動を含んでいた。つまり、細胞塊から分離した各細胞は、初めに高密度領域内で右方向に偏った細胞集団運動を行い、高密度領域を出た後に密度波を形成していた。この高密度領域は何か?どのように形成されるのか?を明らかにすることで、細胞性粘菌変異株集団における左右非対称構造の形成原理の解明に迫れると考えている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年度では、長方形の長辺に垂直な粗密波を形成する各細胞はどのように運動しているのか、という点に着目し、いくつかの重要な知見を得ることができた。特に、細胞塊の近傍に高密度領域が存在し内部の細胞が左右非対称な運動を行っている点や、密度波が高密度領域から突出している点などは、左右非対称構造の形成原理の解明に迫る重要な発見である。同時に、高密度領域内の細胞がどのように左右非対称な運動を行うのか、という新たな問いが生まれたが、これに答えることで本研究課題の目的を達成することができると考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は、前に述べたように高密度領域内の細胞がどのように左右非対称な運動を行うのか、という疑問を解消していきたい。そのために、1細胞の左右非対称運動と高密度領域内のような細胞が集団化した際の左右非対称運動の関係性を調べる必要があると考えている。したがって具体的には、1細胞および細胞集団の運動解析を中心的に行っていく予定である。また、ここで明らかになった現象や得られたデータを利用した数値シミュレーションにより、左右非対称構造の形成を再現する計画である。
|
Causes of Carryover |
コロナウイルス感染拡大に伴う措置として、思うように学会発表等の出張が困難だったため。今年度より対策が大幅に緩和されるため、従来通り研究活動を行っていきたい。
|