2019 Fiscal Year Research-status Report
「信頼」概念に着目した関係的かつ感情的な自律概念の研究
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19K12924
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Research Institution | Kyoto City University of Arts |
Principal Investigator |
永守 伸年 京都市立芸術大学, 美術学部/美術研究科, 講師 (70781988)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 信頼 / 自律 / イマヌエル・カント |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は(1)自律概念の概念史研究、(2)信頼概念の哲学的分析、(3)関係的かつ感情的な自律概念の提示、という三段階の研究をおこなう。さらに、各段階の成果を(i)異分野の研究者との研究会の開催、そして(ii)国内外の学会発表によって公表する。
(i)自律概念の歴史 本年度、本研究は(1)の目的を達成するために自律概念の歴史研究をおこなった。さしあたってJ・B・シュナイウィンドの研究をはじめ、先行研究に基づき伝統的な自律概念を「アウトス」と「ノモス」という二つの構成要素の関係によって整理した。その上で、アウトスを重視する「個人的自律」の源流がミルにあること、また「関係的自律」の可能性がカントの思想にあることを確認した。それらの成果は自律概念をめぐる申請者のカント研究として、日本倫理学会やカント協会における研究発表を通じて公開された。 (ii)関係的自律の背景 続いて、現在、個人的自律がいかなる限界を示しており、いかに批判されているかを検討した。第一に、個人的自律の前提とする個人主義と理性主義が抱える哲学的難点を、(i)の概念史研究に基づき明らかにした。第二に、これらの哲学的難点が現実的には障害者や女性の排除に結びついてきたことを、フェミニズムの思想や看護の倫理、障害学の知見から示した。これらの成果は、2020年の関西倫理学会のシンポジウムにおいて、研究発表「倫理学における超越論的方法と自然主義」として公開される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画は、カントにおける「自律」概念を主軸とする概念史研究を予定していた。しかし実際には、この概念史研究に加えて「信頼」概念をめぐる哲学的研究も進めることができ、「自律」と「信頼」の両輪をめぐる本研究の予想以上の進展が実現した(自律をめぐる申請者の哲学史研究の成果は、日本倫理学会の学会誌において2020年に公開される)。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の目的(2)信頼概念の哲学的分析を遂行する。
(i)信頼研究のサーヴェイ:2019年度の研究成果によって個人的自律の歴史とその限界が確認された上で、新たに関係的自律の可能性が信頼概念に基づき考察される。まずは、これまで申請者がおこなってきた哲学的信頼研究に基づき、信頼概念を「不確実な状況下における期待」と理解した上で、D・ヒューム、G・ジンメル、T・パーソンズ、N・ルーマンらのテクストから信頼の思想が抽出、分類される。
(ii)感情的態度としての信頼: さらに、A・バイアー、K・ジョーンズら、現代の哲学的信頼研究が「不確実な状況下における期待」を「感情的態度」とみなすことを文献研究によって確認する。そして、信頼における「感情的態度」が一方ではヒューム主義的な感情の理論に支持されつつ、他方ではその感情的交流が社会秩序の誘因として自律の「ノモス」の要素となりうることを論証する。
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Causes of Carryover |
2019年度末に予定されていた研究会が、感染症対策のために中止になったため次年度使用額が生じた。この差分は、2020年度に延期され、開催予定の研究会の出張費として使用する。
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Research Products
(4 results)