2020 Fiscal Year Research-status Report
Epistemic Injustice as Vice and Epistemic Agent's Responsibility
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19K12926
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Research Institution | Keiai University |
Principal Investigator |
佐藤 邦政 敬愛大学, 国際学部, 准教授 (50781100)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 認識的不正義 / 参加的不正義 / 認識的横領 / 認識的搾取 / 貢献的不正義 / 構造的不正義 / 知識の主体 / 構築 |
Outline of Annual Research Achievements |
認識的不正義の先行研究をサーヴェイ調査し、以下のことを明らかにした。 (1)ミランダ・フリッカーが定式化した証言的不正義(testimonial injustice)と解釈的不正義(hermeneutical injustice)のほか、少なくとも、認識実践に不当に参加させない参加的不正義(participatory injustice)、先行する他者の功績を不当に無視する認識的横領(epistemic appropriation)、一部の人の考えをその社会的タイプの人々全体を思想として不当に誇張する認識的搾取(epistemic exploitation)がある。この点については、PPP研究会で研究発表を行った。 (2)認識的不正義は、偏見のありかに応じて、個人がもつ偏見による不正という意味での個人的不正義、社会や政治制度に偏見が蔓延している構造的不正義、制度に蔓延している偏見に薄々気づきながらも自分の社会的身分の保身のために無視することで不正に貢献する貢献的不正義に分類できる。この点については、『フィルカル』の分析フェミニズム特集で簡単にまとめた。 (3)個人的不正義は、その不正を被る個人と不正を犯す個人の関係に着目し、薄い(thin)関係性と厚い(thick)関係性が区別され、前者に比べて、後者は人としての信頼関係の失わせるものであり、それは知識の主体の構築につながる、より深刻な不正である。この点は、今後、出版されるEpistemic Injustice(OUP, 2007)の邦訳書の訳者あとがきに掲載される予定である。 (4)偏見に基づく不正義への一つの責任として、知識の主体としての変容があることを指摘した。この点は、2021年にEpistemeに論文が掲載される。(2020年3月14日にアクセプト済み)
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
コロナ禍で家族が濃厚接触者に指定されるなど、コロナ感染症に対応するため様々な予期しない状況への対応を迫られたことに加えて、フルブライト奨学生として予定していたニューヨーク市立大学院センターへの半年間の研究滞在が延期になったことが挙げられる。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)遅れているフリッカーのEpistemic Injustice (Oxford University Press)の邦訳原稿を2021年夏までに完成させる。その後、勁草書房より出版される予定である。次に、認識的不正義の種類と各不正の諸理由についての議論をまとめたサーヴェイ研究を、上記の邦訳書の訳者あとがきに紹介するほか、国内学会誌での論文に掲載することを目指す。 (2)フルブライト奨学生としての海外研究滞在については、残念ながら現在も見通しが立っていないため、今後も国内研究を基本として、これまでのサーヴェイ研究の調査にもとづいて、国内外の学会誌へのオリジナルの論文執筆に専念する。特に「研究実績」で示した、厚い人間関係における不信から、知識の主体が構築されていく不正は「変容的不正義」として論文にまとめることができると考えている。以上のことから、当初予定していた海外研究の旅費を、海外書籍や論文の購入費、および、英文投稿に伴う英文校閲費用により多く分配する予定である。
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Causes of Carryover |
コロナ禍で国内学会がオンラインで開催されたことと、米国滞在での調査研究が延期になったことによる。今後も海外研究の見通しは立たないことから、当初予定していた海外研究の旅費を、海外書籍や論文の購入費、および、英文投稿に伴う英文校閲費用により多く分配する予定である。
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