2021 Fiscal Year Research-status Report
Epistemic Injustice as Vice and Epistemic Agent's Responsibility
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19K12926
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Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
佐藤 邦政 茨城大学, 教育学部, 助教 (50781100)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 認識的不正義 / 認識的責任 / 認識的不運 / 変容的経験 / 変容的不正義 |
Outline of Annual Research Achievements |
〔1〕認識的不正義の害 フリッカーは認識的不正義の第一次的害として、十全な知識の主体を不当に貶めるという害を挙げる。しかし、認識的不正義には別の害もある。私は、被害者と加害者のあいだでの信頼関係を失わせることで、被害者を偏った仕方で構築し、自信喪失などネガティブな方向に変容させるという害を与えることがあることを明らかにし、この不正義を「変容的不正義」として定義した。 〔2〕認識的不正義に対する責任 証言的不正義が、社会構造に潜んで蔓延している偏見的ステレオタイプに起因する場合、その偏見的ステレオタイプの保持者がその偏見を自己認識することを期待するのは難しい。そのため、フリッカーは、加害者には不正を行った過失があるとしても、加害者は認識的な非難には値しないと主張する。しかし、先行研究では、この議論に対して様々な批判がある。たとえば、ホセ・メディナは、偏見の蔓延している社会的状況だけではなく、個人の社会的役割(たとえば、患者に対する医師)に着目し、その役割に応じて自分の偏見的ステレオタイプに対する無知に異なる仕方で責任がありうると主張している。私は、以上の研究状況を整理したうえで、認識的不正義に対する責任のあり方として、社会的状況と役割に応じた個人の価値変容という形態がありうると主張するアイデアを得た。これを踏まえて、2022年度(最終年度)において研究論文の形で本研究成果を発表する予定である。 〔3〕具体的な認識実践における不正義(教育実践、障害者と働く職場) 証言的不正義は、異なる認識実践の文脈のなかで異なる現れ方をする。私は、教育における文脈と障害者と共に働く職場という文脈における認識的不正義のあり方について明確にし、それらを論文と書籍の1章で執筆した。来年度は認識的不正義が生じる文脈の意義について論じる研究発表または論文執筆を予定している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
コロナ禍で家族が濃厚接触者に指定されるなど、コロナ感染症に対応するため様々な予期しない状況への対応を迫られた。そのため、当初2021年度後半に予定していた、認識的不正義の加害者の責任に対する研究をまとめる準備が十分に確保できず、その研究発表を行うこともできなかった。また、ミランダ・フリッカーが執筆したEpistemic Injustice(Oxford University Press, 2007)の翻訳と解説の執筆も当初の予定より遅れている。現在、予定より1年遅れて、2022年夏以降に勁草書房より出版を予定している。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年春を予定していたフルブライト奨学生としてのニューヨーク市立大学院センターへの研究滞在が約1年遅れて、2022年2月に実現した。そのことで、集中的に研究できる環境に恵まれた。 このことで、第一に、遅れていた認識的不正義の加害者の責任にかんする研究をミランダ・フリッカー教授と何度か議論する機会を得て、フィードバックをもらうことで最終的なアイデアを明確にする。そのうえで、英米圏の主要な学術雑誌に投稿する。第二に、遅れていたEpistemic Injusticeの翻訳と解説の執筆に充てる時間を確保する。以上の方法で、本研究で予定していた研究成果を得ることができると考えられる。
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Causes of Carryover |
コロナ禍で国内学会がオンラインで開催されたことと、米国滞在での調査研究が延期になったことによる。現在、ようやく米国での研究滞在が実現し、海外での研究発表(カナダ・バンクーバー)、研究会への参加(米国・イエール大学)などへ出張費、海外書籍や論文の購入費、および、英文投稿に伴う英文校閲費用として2022年度に使用する予定である。
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