2019 Fiscal Year Research-status Report
To Construct the Way of Thinking about Completion of the Life;by Perusing Hagakure
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19K12928
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Research Institution | Kanda University of International Studies |
Principal Investigator |
上野 太祐 神田外語大学, 外国語学部, 講師 (30835012)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 『葉隠』 / 死 |
Outline of Annual Research Achievements |
「研究実施計画」に記した通り当研究は①一般に定着している『葉隠』理解の形成過程の解明と、②『葉隠』本文の内側からの編纂過程の解明との二つを柱としている。2019年度は①で1点、②で2点の計論文3点を公刊した。①の成果は「武士道の混乱、あるいはもうひとつの「創造」――『葉隠』から立ち上がるもの」(『神田外語大学日本研究所紀要』第12号)である。本稿では日露戦争前後の武士道ブームのなかで当時はまったく注目されていなかった『葉隠』が中村郁一により出版・改版された過程と武士道のイデオローグ井上哲次郎によるその受容を明らかにした。これまで知られていなかった井上の書き込み入り『葉隠』を分析し彼の『葉隠』への注目の低さを浮き彫りにした。②の成果は「陣基は、死ねたのか」(『思想史研究』第27号)、および「常朝の生きる苦しみ――「死ぬ事と見付たり」をめぐって――」(『倫理学年報』第69集)である。両者は研究遂行者の独自の『葉隠』読解を示すための礎となる論考である。前者は、聞書一・二を中心とした山本常朝の思想解釈だけに偏っていた従来の『葉隠』思想理解に対し、これまで「補遺」と位置付けられてきた聞書十一に着目することで編者田代陣基の視点を取り込むことを目指した論文である。後者は、前者の成果を一方の極に持ちつつ『葉隠』の原形の語りへと迫るべく、特に受容史上もっとも注目される教訓「死ぬ事と見付たり」について、聞書一・二を通じた常朝の実存から捉え直したものである。「研究の目的」は死の議論を日本社会の正面から論じるための基盤の整備と素材の提供であり、三本の論文はそのための地歩となっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
必要文献の購入や考究成果の公表は十分に行えているが、学内業務との調整を十分にできなかったことに加え、新型コロナ・ウイルス感染拡大の影響で年度末に予定していた現地調査を控えざるを得なかったため。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の究極目的は、現代の日本社会に求められる新たな倫理思想の方向を切り拓くことであるため、その成果は『葉隠』の専門的研究としてまとめ上げるだけではなく、昨今の情勢を鑑み、死を正面から議論できる基盤の整備と素材の提供という点をいっそう重視し、日本倫理思想史のうえに『葉隠』を位置付けたかたちの研究成果を一般へ発信することも視野に入れる必要があると考える。また、2020年度以降には当科研費での研究成果を海外で公表する方向で調整している。新型コロナ・ウィルスの感染拡大の懸念が十分に払拭され、かつ移動制限が解除された段階で現地調査を遂行する。それまでは手元の『葉隠』写本・テキストを用いた研究をいっそう推し進めるとともに、倫理学・日本倫理思想史の観点から人生のあり方や自身の死を改めて自覚的に問う姿勢を一般向けに喚起できるような素材の準備を行う。
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Causes of Carryover |
ほぼ予定通りの使用額であるが、年度末の現地調査計画が無期延期となった分、若干の端数が出た。次年度は引き続き、状況次第ではあるが現地調査計画および海外渡航による学会発表、国内での学会発表、ならびにまだ入手できていない参考文献の購入に充てる計画である。
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