2020 Fiscal Year Research-status Report
To Construct the Way of Thinking about Completion of the Life;by Perusing Hagakure
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19K12928
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Research Institution | Kanda University of International Studies |
Principal Investigator |
上野 太祐 神田外語大学, 外国語学部, 講師 (30835012)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 武 / 葉隠 |
Outline of Annual Research Achievements |
「研究実施計画」に記した通り当研究は①一般に定着している『葉隠』理解の形成過程の解明と、②『葉隠』本文の内側からの編纂過程の解明との二つを柱としている。2020年度は元来佐賀県での現地調査を予定していたが、新型コロナウィルス感染症の拡大をうけ、それが実現できなかった。また、研究遂行の過程で、『葉隠』に代表される近世武士道の思想の発生を、それ以前の武士の思想を踏まえて位置付ける必要があると考えた。そのため、2020年度は当初の「研究実施計画」を大きく変更し、現時点で研究が可能な範囲で、中世の兵術や中世に発達した軍記物語の類を中心に、近世以前の武士の在り方・描かれ方を考察した。結果、現時点で公刊されている成果は、「武士道、武道、武――その哲学的あらまし」(Raphisa vol.4)の一点である。本稿は、セビリア大学の紀要に寄稿したもので、スペイン語訳(訳者Arsenio,Sanz Rivera氏)を付し、日本における「武」の捉え方の変遷を紹介した内容になっている。具体的には、日本の「武」を古代・中世の呪術性を帯びた「武」、近世の道の「武」、近代の暴力としての「武」といった局面で切り分け整理した。また、新渡戸稲造『武士道』がスペイン語で翻訳されることを受け、近世武士道の『葉隠』と近代武士道の『武士道』との差異を倫理学・日本倫理思想史の立場から解説するZoomインタビューに協力した。また、現時点では公刊されていないものの、公刊に向けて準備を続けている内容の一つに、中世の戦術における時間論がある。本件は、2021年度以降引き続きの課題としたい。いずれにせよ「研究の目的」は死の議論を日本社会の正面から論じるための基盤の整備と素材の提供であり、日本の思想における「武」の捉え方の多様性とその変遷、死に向かう武士の時間論の考究などは、その目的に資する内容である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
2020年度は新型コロナウィルス感染症の拡大と学内外での諸業務とが重なり、現地調査を含めて、思うように研究の遂行ができなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の究極目的は、現代の日本社会に求められる新たな倫理思想の方向を切り拓くことであるため、その成果は『葉隠』の専門的研究としてまとめ上げるだけではなく、昨今の情勢を鑑み、死を正面から議論できる基盤の整備と素材の提供という点をいっそう重視し、日本倫理思想史のうえに『葉隠』を位置付けたかたちの研究成果を一般へ発信することも視野に入れる必要があると考える。とはいえ、新型コロナウィルスの感染症の終息の目途が見えない以上、それまでは新たに着手した中世以来の武士思想の文脈から近世武士道の登場を接続させる研究と、手元の『葉隠』写本・テキストを用いた研究とに専念するほかはない。このように死の問題が切実に迫っている情勢下だからこそ、当初の「研究実施計画」だけに縛られることなく、倫理学・日本倫理思想史の研究者として、人生や自身の死を改めて自覚的に問うための素材となるような論稿を準備していきたい。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染症の拡大により、国内外での移動が制限されたため。
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