2021 Fiscal Year Research-status Report
To Construct the Way of Thinking about Completion of the Life;by Perusing Hagakure
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19K12928
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Research Institution | Kanda University of International Studies |
Principal Investigator |
上野 太祐 神田外語大学, グローバル・リベラルアーツ学部, 准教授 (30835012)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 『葉隠』 / 時間 / 死 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度に引き続き武士の実態に焦点を当てながら、『葉隠』の武士道思想形成に至るまでの武士の思想を時間論の観点から整理した。具体的には平安末期から近世初頭までの武士の合戦の様子、またそれらが物語や中世的戦術書などに描かれていく際の様子について、『陸奥話記』『平家物語』「兵将陣訓要略抄」などの諸書を用いて調査し考察した。この調査を通じ、現実の合戦の在り方が物語に影響を与えるだけではなく、物語として生成している時間意識が現実の合戦の時間意識にも影響を与えている構造が見出せた。過去の反復・再現によって、将来の時間(例えば、合戦での勝利など)を確定しようとする武士の思索を明らかにした。その成果は、8月にオンラインで開催されたTime in Medieval Japanの国際学会において、Time is Recurring(回帰する時間――日本中世の戦術に見る物語的時間)の題目で英語で報告した。その後、当学会での質疑を踏まえ、年度末に他研究者との合同論文の素案を完成させ、将来的には査読をへて出版される予定である。また、『葉隠』の膨大な先行研究の整理も進めた。現在に近づくにつれてきわめて多様な『葉隠』解釈が見られ、より丁寧な考察が必要であることが明らかになった。これらの成果は現状では公表の機会が無かったが、将来的にはその成果を出版したい。『葉隠』本体の省察については、研究者の能力の限界もあり、必ずしも十分に進めることができなかった。しかし、幸せな死を考察するにあたり避けて通ることのできない自死や慈悲殺について、先行研究の調査を行った。これらの成果のまとめは引き続きの課題である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
これまでに、近代の『葉隠』受容史の端緒に焦点を当てた考察、『葉隠』の語り手である山本常朝の教訓(特に「武士道と云は、死ぬ事と見付たり」)の解釈、『葉隠』の書き手である田代陣基の編纂という視点から聞書十一の位置と意味をめぐる解釈、より広く武士や日本における武をめぐる思想史のあらまし、中近世の合戦の現場と物語の時間論など、複数の成果を論文や学会報告等の形で公表してきた。しかし、この間にコロナウィルスの世界的流行に加え学内外の業務負担により、佐賀県での実地調査が当初の予定とは大幅に遅れてしまい、現在に至るまで思うように遂行できていない。また、当初の見通しとしては研究最終年度は先行研究調査をはじめ全体の総括に取り掛かるとともに、成果の出版を目指す運びであった。しかし、先行研究の整理をしているなかで新たに考えなければならないことや、より正確な事実関係の確認の必要などに迫られ、『葉隠』成立から現在に至るまでの受容史の整理にも当初の目算以上に時間がかかっている状況である。他方、これまで調査・考察ができたものについては、適宜学会等での発表の機会もあり、可能な限りの積極的な公表・発信は国内外問わず行えている。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までの進捗状況を受け最終年度では、『葉隠』受容史の総括と完成を目指すとともに、佐賀での現地調査を実現したい。また、『葉隠』をはじめとする武士道における徳をめぐる考察を通じて、幸せな死の在り方という本研究の核心に進みたい。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、当初日本国内および海外の学会への参加や佐賀県現地調査に伴う出張旅費として見積もっていたものがコロナウィルス拡大に伴い大幅に制限されたためである。海外学会への参加は依然厳しいものがあるが、国内の状況次第では現地調査は実行できそうなため、次年度使用額はその調査や、これまでに入手できていない『葉隠』関連の資料や文献の購入に用いたい。
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Research Products
(3 results)