2022 Fiscal Year Research-status Report
To Construct the Way of Thinking about Completion of the Life;by Perusing Hagakure
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19K12928
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Research Institution | Kanda University of International Studies |
Principal Investigator |
上野 太祐 神田外語大学, グローバル・リベラルアーツ学部, 准教授 (30835012)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 『葉隠』 / 時間 / 死 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度は、スイスのチューリヒ大学アジア・オリエント研究所のラジ・シュタイネック氏を代表として進められている中世日本の時間に関する研究プロジェクトTIMEJの戦争パートに寄稿する共著原稿の内容整理のために各執筆担当の原稿を合わせた上で論理的整合性の確認・改善を行い、英文化を進めた。また、『葉隠』がどのように読まれてきたかをめぐる論考の草稿を書き上げた。前者については、『葉隠』理解を深めるべく『葉隠』以前の武士の思想的実相をおさえるため、歴史学研究の成果を踏まえながら、中世の戦争をめぐる武士の時間意識の思想について、『平家物語』や中世に普及した偽書、および民俗的事象などから描出して全体の構造化を行うとともに、執筆者二名の草稿を合体させて一つの原稿にまとめた後、チューリヒ大学のザラ・シュミード氏の協力を得ながら原稿全体の英語化を完成させた。後者については、すでに同様の研究成果が歴史学的立場からなされつつあることを受け、そうした観点とは異なる立場、すなわち『葉隠』を《思想として》「読む」という立場から、あらためて複数の先行研究を読み込み、幕末期から戦後までに公刊されてきた『葉隠』の読まれ方に見いだされる思想構造とその問題点を整理する論考の草稿を書き上げた。また、これらの研究を補う研究報告として、『愚管抄』における保元の乱をめぐる争いの叙述から、『愚管抄』の著者慈円の現存に迫る視点からの報告を神奈川大学で開かれた研究会で行った。加えて、『葉隠』の成立とほぼ同時期になる伊藤仁斎『童子問』の研究会を静岡県立大学国際関係学部の吉田真樹氏とともに定期的に開催しそこで報告を担当することにより、倫理思想としての『葉隠』の特質を『葉隠』以外のテキストから照射して捉える研究も進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2020年から新型コロナウィルスの流行に伴い移動の制限が度々あったことや、学内外の業務が重なったことにより、特に『葉隠』の現地である佐賀での調査が全く行えていない。ここには、事前の資料の読み込み不足による訪問地限定の難しさなども影響している。観念の次元では思想として読み込みたい内容や論じたい内容が複数あるものの、実地調査の立ち遅れの影響が大きい。
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Strategy for Future Research Activity |
『葉隠』のなかには仏神に関する言及がみられるものの、その内容は時に相対立するものを含んでおり丁寧な整理が必要である、とこれまでの研究から気がついた。そのため2023年度は、これまでにも必要に応じて研究上の助言を得ている静岡県立大学国際関係学部の吉田真樹氏の知見を借りながら、武士の仏神観念を深く理解するための実地調査を行うとともに、『葉隠』発祥の地である佐賀での資料調査も実現したい。また、角度を変えて、西洋の思想(例えば、キリスト教的神との結びつきがきわめて濃厚な騎士道に見られる徳)との比較を通じながら、『葉隠』に描かれている武士の「徳」の個性を明らかにする研究も進めたい。こうした成果を取り入れながら、従来あまり言及されてこなかった『葉隠』の思想的特質に迫り、そこから導き出される死/生の捉え方を以て、現代のわれわれがあらためて向き合うべき人生の課題をまとめる成果を出す方向で研究を進めたい。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルスの感染拡大に伴う移動制限や学内外の業務の重なりにより、当初現地調査の旅費や海外学会への渡航を見越して計上した使用額が当初の目途通りにはほとんど使用できていないこと、古書を多く購入することを見越していたものの想定金額よりも安価に入手できるものが多かったことなどが次年度使用額の累積につながっている。2023年度は、佐賀での現地調査や、武士の仏神観をおさえるべく、それにゆかりのある聖地の景観考察などの研究手法を取り入れる予定であるため、これらの移動費として当該助成金を使用したい。
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