2019 Fiscal Year Research-status Report
On Applying Moral Theories in Kant. Exception, Collision of Duties, and Discrimination
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19K12929
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
石田 京子 慶應義塾大学, 文学部(三田), 准教授 (80736900)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | カント / 倫理学 / 義務の衝突 / 例外 / 差別 / 法哲学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究「カントにおける道徳理論の適用の問題――例外・義務の衝突・差別」は、理論を事例に適用する際に生じうるであろう道徳的な難問を分析・解決するための方法論を、法哲学もふくめたカント実践哲学に即して提示し、その有効性と限界を画定することを目的とする。またそのことを通じ、功利主義や徳倫理学とは異なる形式主義的・厳格主義的な規範理論としてのカント実践哲学の意義を確認することも、目的としている。2019年度は主として、カントの法哲学と道徳哲学との関係に関する研究の成果発表をいくつか行った。6月に単著『自律と法――理性批判から形而上学へ』を上梓し、カント法哲学の基本的な体系に関する研究の成果を公表し、カントの法哲学が道徳哲学の中心概念、すなわち、意志の自由と定言命法から切り離しえないことを示した。同時にカント実践哲学の体系性を示し、義務の衝突や例外という事態がその体系のなかには原理的には生じえないことを確認した。また9月にドイツで開催された「第13回独日倫理学コロキウム」では、"Was bedeutet bei Kant, dass das Recht von der Moral abhaengt und aus der Moral abgeleitet wird?"というタイトルの発表を行い、先行研究のなかで法と道徳の関係を論じる際に、法と道徳を何を指すのか、「導出する(ableiten)」や「依存する(anhaengen)」といった用語をどのような意味で用いられているのかがあいまいであり、多様な解釈が生じるのもそれに由来することを示した。そのうえでカント自身がそれらの用語を実践哲学以外の文脈でどのように整理しているのかを指摘した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2019年度はフランクフルトでの在外研究中で、受け入れ先の教員と話し合った結果、カント哲学における法と道徳の関係についての整理と発表に時間をかけ、本研究の前提となる議論を整理することとした。現在は日本に復帰しており、義務の衝突に関する議論をまとめる本研究の第一段階は、実質的には2020年度から開始する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、カント哲学のうちで理論適用の問題として考察しうるトピックとして、A.法則の例外の正当化や義務の衝突の問題、B.理念的状況の実現以前に妥当する規範としての「暫定的権利」、C.理論適用の失敗事例としての差別の問題を検討する予定であり、最終的に、この3つのトピックの検討から得られた知見をもとに、道徳理論を現実に適用する際に生じうる問題に対応するために必要な概念を整理し、現実の社会で行為を適切に導くのに必要な条件を、カント実践哲学の枠組のうちで定式化することを目指す。2020年度は9月に開催される独日倫理学コロキウムでAの課題、すなわち義務の衝突に関するカントの考えについての研究の成果発表を行う予定である。
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Causes of Carryover |
今年度はドイツのフランクフルトに滞在していたため、国際学会や研究会に出席するための旅費が大幅に軽減され、助成金の使用額が減少した。今年度はフランクフルトでの独日倫理学コロキウム、大阪哲学ゼミナール(大阪)や日本カント協会(金沢)での研究発表を予定しており、昨年度より多くの額を旅費として使用する予定である。
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Research Products
(3 results)