2021 Fiscal Year Research-status Report
表現的応報理論に基づく適切な刑罰形態に関する哲学的研究
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19K12932
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
中村 信隆 上智大学, 文学研究科, 研究員 (60823367)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 尊厳 / 表現的応報理論 / 応報 / 平等 / 動物の尊厳 / 赦し |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)表現的応報理論の根幹を支える人間の尊厳の「根拠」と「担い手」をめぐる問題をめぐる前年度の研究を深め、論文を執筆した。尊厳の根拠はまず道徳的能力としての理性であるが、尊厳の概念が意義をもつためには、理性に加えて、屈辱的な扱いを受けた場合に憤りの感情を覚える能力も必要であり、この二つが尊厳の担い手となるための必要条件であること、そしてチンパンジーなどの一部の動物はそのような条件を満たすために十分に尊厳の担い手となりうることを示した。 (2)表現的応報理論において要請される応報的刑罰は、加害者と被害者が対等に尊厳をもつことを表現するために刑罰を科すが、そもそもこの尊厳における「対等性」ないし「平等」がいかにして基礎づけられるのかという前々年度の研究を発展させて、対等性の根拠は自尊心の柔軟性にあることを論文で明らかにした。 (3)表現的応報理論は、被害者の尊厳を表現するためとはいえ、加害者に大きな害悪を科すことを正当化することになる。このような報復的な刑罰論と対照的なのが、赦しや和解を重んじ、加害者と被害者そしてコミュニティの関係を修復することを目指す修復的司法である。しかし表現的応報理論には修復的司法の考え方と重なる部分もあり、そこで両理論の関係を探るために、表現的応報理論において「赦し」がどのような評価されるべきかを研究した。主にJ・マーフィの刑罰論を参照しながら、安易に加害者を赦すことが、被害者の自尊心を軽視することにつながる点を押さえながらも、十分に反省している加害者に対する赦しが適切な応答となる可能性や、十分に反省しているということの意味について研究した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初は、応報的刑罰と復讐の関係をめぐる前年度の研究を発展させて、復讐の道徳的意義などについても研究し、論文として成果を発表する予定であったが、前々年度の課題である尊厳における平等の基礎に関する研究や、前年度の課題である尊厳の担い手に関する研究の成果を発表することに多くの時間を費やしたため、復讐をめぐる研究があまり進展せず、また赦しをめぐる研究の進展も予定よりやや遅れた。以上の理由により、研究がやや遅れていると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)応報的刑罰と復讐の関係、復讐の道徳的意義に関する研究を発展させる。特に、応報的刑罰は代理的な復讐なのか、それとも復讐とは原理的に異なるものなのかを、名誉の概念を分析することで明らかにする。 (2)前年度の「赦し」に関する研究を発展させて、どのような条件の下であれば、赦しが被害者の自尊心を損なうことなく可能となるのかを明らかにし、赦しが応報的刑罰と並ぶ、あるいは両立する重要な選択肢であることを示す。 (3)現代では、罰金刑や自由刑が主流であり、身体的な苦痛を主な構成要素とするような身体刑は、人権や尊厳の観点から不適切と考えられる傾向が強く、同じ観点から体罰も不適切と考えられることが多い。しかし表現的応報理論の観点に立つと、被害者の尊厳を表現するうえで、罰金刑や自由刑がどの程度適切なのか、むしろ被害者が暴力を振るわれていた場合には、身体的な苦痛を伴った刑罰の方が、被害者の対等な尊厳を表現するうえで適切なのではないか、という素朴な疑問が生じる。身体刑や体罰が不適切であるとしたら、それはどのような根拠に基づくのかを、原理的な問題にまで遡りながら考察する。
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Causes of Carryover |
当年度必要な書籍がそれ以上なかったため残額が生じた。 翌年度、必要な書籍の購入費用に充当する。
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Research Products
(2 results)