2020 Fiscal Year Research-status Report
Study about Islamic philosophy's impact on the development of the Medieval natural philosophy
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19K12934
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Research Institution | Toyo University |
Principal Investigator |
高橋 厚 東洋大学, 文学部, 助教 (70817395)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 西洋中世哲学 / 自然哲学 / スコラ哲学 / アリストテレス / トマス・アクィナス / アヴェロエス |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は、研究実施計画にのっとり、十二世紀スペインの哲学者アヴェロエス(イブン・ルシュド)の自然哲学の西欧における受容にかんして、十三世紀のキリスト教神学者であるアルベルトゥス・マグヌスの自然哲学的著作、同じく同時代の神学者のトマス・アクィナスの『「天界について」註解』、十三世紀末のアヴェロエス主義の哲学者ジャンドゥンのヨハネスの『「天界について」問題集』の分析・検討を進めた。 まず、アヴェロエスの物質主義的哲学にたいする応答として、天界の力の働きを重視するアルベルトゥスの思想を、後者の『生成消滅論』『気象論』を分析することで示した。その具体的成果は、アラビア哲学研究の世界的な権威である Richard Taylor 氏が編集する書籍のなかの論文(“Against Averroes’ Naturalism: The Generation of Material Substances in Albert the Great’s De generatione et corruptione and Meteorologica IV”)として、ベルギーの Brepols 社により近日出版予定である。 次に、トマス・アクィナスとジャンドンのヨハネスの宇宙論を現代の自然哲学の観点からも考察することで、アクィナスやヨハネスの論考の歴史的意義と、現代哲学に欠けている中世哲学の理解の重要性を、『現代思想』(青土社)に寄稿した「神なる天体 中世における自然哲学」によって示した。また、『世界哲学史 5: 中世III バロックの哲学』(ちくま新書)にも「近世スコラ哲学」を寄稿することで、初期近代の科学的精神の形成にたいするアヴェロエスの自然哲学の影響を考察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
十二世紀の哲学者アヴェロエスの思想の影響という観点から、西欧の十三世紀・十四世紀に活躍したアルベルトゥス・マグヌス、トマス・アクィナス、そしてジャンドゥンのヨハネスの自然哲学を考察する点では、関連する研究論文を発表し、及び単著の出版準備作業を進めた。さらに、初期近代のスコラ学の展開にも考察を広げることで、イスラームの自然哲学が後期中世から初期近代の西欧の知識人の思想形成に対してどのようなインパクトを与えたのかを考察することができた。それによって、特に、天界の作用を理論の中心とするアヴェロエスの摂理論が、トマス・アクィナスのみならず、後世のルネサンス期の哲学者たちの著作にも影響を与えたことを示すことができた。 国際的なワーキンググループである「アクィナスとアラブ哲学」(Aquinas and the Arabs)の国際会議が六月に行われる予定であったが、コロナ禍のために2021年の六月に延期されることになった。しかし、その間も研究について Richard Taylor 教授のアドヴァイスを受けるなどして研究を国際的な視野から進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度の研究の中心は、次の三点である。①トマス・アクィナスの『「天界について」註解』にかんする論考を、英語と日本語の双方で論文化すること、②アルベルトゥス・マグヌスとトマス・アクィナスのアリストテレスの『形而上学』(ラムダ巻)における宇宙論を、アヴェロエスの自然哲学の受容という観点から考察すること、③2020年度に行った作業を継続し、ジャンドゥンのヨハネスの『「天界について」問題集』の編集作業を進めること。 ①については、六月に予定されている国際会議でも発表し、それと前後する形で英語の論文として国際研究誌に投稿することを予定している。日本語版は国内の中世哲学会などの学会誌に投稿する。②については、西欧における『形而上学』の受容の研究は、特に「存在論」を軸に考察されてきたが、『天界について』の受容を考察する中で、『形而上学』のラムダ巻における宇宙論も、特にアヴェロエスの自然哲学との関連性から考察できることが判明した。これによって単なる『天界について』の考察を超えて、哲学のより大きな文脈でアヴェロエスの思想的影響をはかることができると期待される。③については、まだ『「天界について」問題集』の編集は途上にあるが、2021年度の中世哲学会での研究発表を予定している。
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Causes of Carryover |
必要な書籍・機材等の購入および必要経費の使用に大学の研究費を当てることができたため、科研費分についてわずかであるが残余が生じた。次年度使用分については、研究用書籍の購入に当てる計画を立てている。
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Research Products
(7 results)