2022 Fiscal Year Research-status Report
外国人の一時的受け入れ政策と非正規滞在者の強制送還政策の倫理学
Project/Area Number |
19K12937
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Research Institution | Fukushima University |
Principal Investigator |
岸見 太一 福島大学, 行政政策学類, 准教授 (40779055)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 一時的外国人労働者 / 技能実習 / 人の移動の政治理論 / 認識的不正義 / 関係的平等 / 潜在バイアス / 移民政策 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の課題は、外国人の一時的受け入れ政策と非正規滞在者の強制送還政策という一体的に運用される二つの政策は、(i.)いかなる規範的制約に服するべきなのだろうか、(ii.)その規範的制約のもとでは、どのような施策が許容され、どのような施策が制限されるのだろうか、(iii.)特に日本においては、どのような施策が許容されどのような施策が制限されるのだろうか、という三つの問いの探求である。 第4年目である2023年度では、(i.)と(ii.)に関して、非正規滞在に関して、入管の許可なく暮らすことはそもそも悪いのかという問いを考察した。この論点はJ・カレンズの国境開放論にかかわるが現実の国家でなされる入管法の執行のされ方については論じられていない。本研究は、刑事政策学および行政法の知見もふまえ、制裁としての入管収容は廃止されるべきことと、許可なく暮らす人びとを「不法」と名指すべきではないと考えられる論拠を考察した。 (iii.)に関しては、技能実習生の妊娠に焦点をあて研究した。技能実習で来日した女性が妊娠により悲劇的な事態に直面することは少なくない。2020年11月に熊本の技能実習生女性が自宅で双子の赤ちゃんを死産し自宅の棚に安置したことが死体遺棄罪に問われた事件が広く報道されたことは記憶に新しい。日本の法令を念頭に置いた場合には、男女雇用機会均等法では妊娠・出産等を理由とした不利益取扱いは禁止されているため、彼女が妊娠を隠さねばならなかった理由は理解することは難しい。この問題を理解するためは、法令だけからは捉えることができない構造的不正義に着目する必要がある。そのため、I・ヤングが1990年までに発表した身体と無意識のバイアスについての論考、とアメリカの入国管理政策に関する2020年のA・リード=サンドバルの論考に着目しつつ背景にある構造的不正義を明らかにする研究を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の予定では本年度に本科研の成果を集大成した論考を出版する計画であったが、執筆作業が遅れている。その要因は、身体論、認識的不正議論、構造的不正議論についての理論研究レビューの遅れにある。これらの分野は2010年代以降急速に出版点数が増加している。これらの研究は、従来は政治理論ではあまり注目されてこなかった社会学者のP・ブルデューの社会存在論への注目に特徴がある。本研究においてもブルデューについての検討を行ったが、2022年度においては彼の議論が近年の理論研究にもつ意味を検討しきれなかった。そのため出版計画にも遅れが生じてしまった。 他方で、一定の成果はあった。5月の政治思想学会で行った技能実習生問題についての報告は多くの質問が寄せられるなど反響があった。また、2023年3月には石川涼子氏が主催の移民の政治理論研究会にて「『住民』の境界と入国管理政策」についての報告を行った。この報告では、L・オルガドの議論を手がかりとして、文化的な多数派の防御的な心理に焦点をあてることで、日本における成員資格の範囲を考察した。さらに、上述の非正規滞在の道徳的悪さについての論考は、2023年7月に刊行される稲葉奈々子氏と高谷幸氏との共著『入管を問う』において発表できた。以上の成果もふまえながら、計画の遅れを挽回したい。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の目標は次の二つである。第一に、ブルデューの社会存在論が人の移動の政治理論にもつ意義を年度早期にまとめる。第二に、いま述べた主題に加え、技能実習生の妊娠問題、3月に行った文化的多数派の心理についての議論までも含む価値で、これらの研究を集大成となる著作を年度内に刊行したい。
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Causes of Carryover |
コロナ禍の影響により当初予定していた国内外での研究出張が実施できなかったため。また年度内に予定していた書籍の出版が遅れたため。
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