2020 Fiscal Year Research-status Report
インド初期仏教における涅槃の文献学的および学際的研究
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19K12948
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
富田 真理子 大阪大学, 文学研究科, 招へい研究員 (20837273)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | インド仏教 / 初期仏典 / パーリ聖典 / 涅槃 / スッタニパータ / 註釈 / パラマッタ・ジョーティカ― / 仏塔 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和2年度は, パーリ聖典における該当用例の抽出, 分類, 読解を引き続き進め, 韻文を主とする文献およびそれらの註釈の解釈に関する検討が完了した. その中で, 主要経典である『スッタニパータ』(Sn)とその註釈(Pj)における涅槃観の比較については, 論点を整理してまとめ直し,『パーリ学仏教文化学』第34号に投稿した. その論文(査読有)が, 2021年3月に出版された. そこから得られた研究成果として, Pjは, 涅槃の時点を生前と命終で区別する二種涅槃[界]の教理を前提とした, 全般的に整備された教理体系に沿った解釈であること, 一方, Snから読み解ける涅槃観は, その時点が生前か命終か明確に判別できない用例が多数確認されることを指摘し, このことは涅槃が最古層において, 現世の文脈でありながら, 煩悩の滅のみならず,「老いと死の滅尽」とも定義されることに起因すると分析した. さらに, Sn中の定義に照らすと, 涅槃かどうかさえ定かではない用例も存在し, SnとPjの間に涅槃観の変遷が見られることを提示した. コロナ禍で不定期開催となったが, 古代インドの仏典・美術研究会(京都)に可能な限り参加した. さらにオンラインで開催された学会に精力的に参加した(例: 日本インド学仏教学会学術大会 [2020年7月4・5日], ワークショップ: 古代文献の言語分析から読み解く社会背景のダイナミズム [2021年2月12日], セミナー: Studies on Buddhist Monastic Cultures; German-Japanese Collaboration [2021年3月17・24日]). 前述を含み, 令和2年度も引き続き, 仏教文献・仏教逸話とインド美術史を有機的に融合させる研究手法について研鑽を積み, 関連図書の収集・調査・整理を進めた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
初期仏典における涅槃に関連する語彙の全用例を網羅的に分析し, かつ学際的アプローチの導入により, インド初期仏教における涅槃の概念に関する新たな知見を提供し, 涅槃の全容解明に資することを目指す本研究は, 2年めとなる2020年4月~2021年3月の期間中, 新型コロナウイルスの世界的蔓延に伴い, 予定していた複数の成果発表の機会および現地での継続調査の機会が失われた. 一つには, 昨年5月末に東京で口頭発表を予定していたパーリ学仏教文化学会第34回学術大会が中止となったことがあり, もう一つには, 2021年1月に口頭発表を予定していた国際サンスクリット学会(開催地: オーストラリア)が1年後へ延期となったことである. 加えて2021年2月下旬に予定していたインド現地調査に関しても実施が叶わず, 従って, 研究の進捗は1年後ろ倒しを余儀なくされており, 遅れていると判断した. そのような状況の中, パーリ聖典における該当用例の抽出, 分類, 読解に関しては, 韻文を主とする文献およびそれらの註釈の解釈に関する作業が完了した. この検討の中から精査して執筆した論文が『パーリ学仏教文化学』第34号(2021年3月)に掲載され, 研究成果の一部公開をした.
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Strategy for Future Research Activity |
令和3年度に予定している文献研究として, 初期仏典中の涅槃に関する語彙を網羅して, 散文中の未検討の用例の抽出を終え, 全用例およびそれらの註釈の解釈に関する文献学的考察を完了させる計画である. 成果発表・公開および現地調査に関しては, 延期となっている未消化予定を実施させる計画である. 文献研究の成果に関しては, 2022年1月に延期された国際サンスクリット学会(開催地: オーストラリア)にて口頭発表を行う予定である. 上記に示した文献学的側面に加え, 学際的アプローチについては, 仏教美術のモチーフと時代背景, そして文献描写との関連性を探る予定であるが, 引き続き古代インドの仏典・美術研究会(開催地:京都)を中心として, 他の研究会にも積極的に参加して, さらなる研鑽を積み, 得られた知見を本研究に生かしていきたい. そして2022年2月に, インド カナガナハッリ大塔(紀元前1世紀頃, 1994年から発掘調査開始. 現在も発掘・復元中)の図像を長年調査・研究している中西麻一子 大谷大学任期制助教を研究協力者として, 1年延期となったインド調査に同行し, 初期仏教の影響が残り, 無仏像時代の仏塔であるサーンチー(紀元前3世紀頃)を中心に現地調査を行う予定である. 但し, 国際サンスクリット学会事務局から, 2022年1月の開催の可否は再延期あるいはオンラインへの切り替えを含め2021年6月に決定予定との連絡も入っており, コロナ禍がさらに長引けば, 再度スケジュールの後ろ倒しを余儀なくされる可能性もあり, それに伴い, 成果発表・公開の機会に, さらなる遅れが生じる可能性も否定できない. 状況に応じて柔軟に, そしてでき得る最大の成果を上げるべく, 当該研究を遂行する所存である.
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Causes of Carryover |
予定されていた学会発表が, 国内(東京)はキャンセルとなり、海外(オーストラリア)は1年延期となったため、国内および海外出張の経費の支出予定が消化されなかった。英語での口頭発表が延期に伴い, 英語校正のための経費も未使用となった。さらに、海外現地調査が遂行できず1年延期となかったことが未消化の理由である。 海外出張および海外現地調査は, 本年度(以降)に履行される計画である。
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