2019 Fiscal Year Research-status Report
インド仏教最後期の論書が伝える有部説―『有為無為決択』第二章から第十二章の研究―
Project/Area Number |
19K12952
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Research Institution | International College for Postgraduate Buddhist Studies |
Principal Investigator |
横山 剛 国際仏教学大学院大学, 仏教学研究科, 研究員 (10805211)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | インド仏教 / 最後期 / アビダルマ / 説一切有部 / ダシャバラシュリーミトラ / 有為無為決択 / 牟尼意趣荘厳 / 倶舎論 |
Outline of Annual Research Achievements |
インド仏教において大きな勢力を誇った説一切有部の教理は、大乗仏教の成立と展開の基礎となった。本研究は、有部の教理が有する基礎学としての性格に注目して、インド仏教最後期の論書が伝える有部説について研究することを目的とする。その中でも特に、チベット語訳で現存するダシャバラシュリーミトラ(1100-1170年頃)の『有為無為決択』の第二章から第十二章において紹介される有部説を文献学的に研究することで、インド仏教最後期の論書が伝える有部説の内容を明らかにする。また、有部内のいかなる系統の教理がインド仏教の最後期へと伝えられたのか、大乗仏教の教理的な影響の下で本来の有部の教理からどのような変容を遂げたのかという点を明らかにする。 研究の第一年度である本年度は、因果を解説する第二章(D 110a2-111a2, P 6b6-8a1)、器世間を解説する第三章(D 111a2-115a3, P 8a1-12b4)、有情世間を解説する第四章(D 115a3-119a6, P 12b4-17b2)を読解した。以上の三つの章の読解を進める際には、そこで説かれる教説の構成や内容を明らかにするだけでなく、先行する諸論書との並行句に注意を払い、典拠の同定を試みた。以上に加えて、蘊処界を解説する第九章(D 140a5-150a1, P 43a6-55a6)のチベット語訳のテキスト研究と翻訳研究に重点的に取り組み、研究成果の発表に向けて準備を進めた。また、第九章の研究成果の一部を報告者が取り組む大乗仏教の法体系の研究に反映させ、それを学術大会において発表するとともに、論文にまとめて発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
『有為無為決択』には『倶舎論』からの引用や借用が数多く見られることが知られている。第二章から第四章を読解する際にも、『倶舎論』との関係に注意を払い、多くの並行句とサンスクリットを回収することができた。また『有為無為決択』と同じ教学的系譜に属し、同論に先行する『牟尼意趣荘厳』との関係にも注意が必要である。この点に関しては、李学竹(中国蔵学研究中心)と加納和雄(駒澤大学)の両氏と共に、『牟尼意趣荘厳』における器世間の解説の翻訳を行い、その内容を『有為無為決択』と比較する作業を進めている。 初年度には第五章から第七章も読解する予定であったが、予定を変更して、第九章の研究に取り組んだ。第九章については、本研究の開始に先立って既に読解を完了しており、その概要や典拠を論文にまとめて発表済である。同章はインド仏教最後期への有部の法体系の伝承を知る上で重要であり、その全容を早い段階で公開することが必要であると判断して、これまでに作成したチベット語訳の批判校訂テキストと和訳の原稿を整理して、発表に向けて準備を行った。 また、第九章は、インド仏教の法体系を総括的に理解するために重要であり、得られた成果の一部を報告者が進める大乗仏教の法体系の研究に反映させた。そして、中観派の法体系の研究成果については、日本印度学仏教学会の学術大会などにおいて発表し、その内容を論文にまとめて『印度學佛教學研究』に発表した。瑜伽行派の法体系の研究成果については、日本印度学仏教学会の学術大会(パネル発表)などにおいて発表し、その内容を論文にまとめて『対法雑誌』に発表した。 さらに、本研究の概要と成果の一部を大正大学綜合仏教研究所公開講座において発表した。 このように、予定を変更した部分もあるが、研究の進捗状況ならびに研究成果から総合的に判断すると、本研究は現時点でおおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
第二年度は、はじめに初年度に読解を行う予定であった第五章から第七章(D 119a6-122b4, P 17b3-21b3)の読解に取り組む。そして、予定していた第八章(D 122b4-140a5, P 21b3-43a6)の研究に入る。以上の研究と並行して、李学竹、加納和雄の両氏と共に、有情世間の解説をはじめとして『牟尼意趣荘厳』の読解を進め、『有為無為決択』と『牟尼意趣荘厳』の関係について検討を継続する。また、第九章のチベット語訳のテキスト研究と和訳研究の成果を論文にまとめて発表することを予定している。さらに、第九章で説かれる法体系の成立に大きな影響を与えたチャンドラキールティの『中観五蘊論』の全訳を刊行することを予定している。
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