2019 Fiscal Year Research-status Report
Multiple Studies on Counter-Narrative Discourses against the Christian World in the Medieval Jewish Literature
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19K12960
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
志田 雅宏 早稲田大学, 産業経営研究所, その他(招聘研究員) (10836266)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 宗教学 / ユダヤ教 / キリスト教 / 宗教論争 / 聖書 / 民間伝承 / 中世 / 聖書解釈 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は主として4つの研究を進めた。 ①中世キリスト教世界への対抗的言説としてユダヤ教文学の概観。特にキリスト教の「イエス・キリスト」信仰を批判するような聖書解釈の文献やユダヤ民衆世界独自のイエス物語を概観し、キリスト教の信仰に対するさまざまな対抗的言説の特徴をとらえた。日本ではほとんど知られていない研究テーマであるため、日本を含む現代社会におけるユダヤ人へのさまざまな偏見の問題と結びつけながら、本テーマについて広く紹介することを意図した。 ②ハイーム・イブン・ムーサの論争文学の研究。15世紀のスペインのユダヤ人宮廷役人のハイーム・イブン・ムーサによるキリスト教論駁書『盾と槍』の分析をおこなった。同書は世界的に見てもほとんど研究がおこなわれていないものであり、今後のさらなる研究とその成果の発表をおこなっていくための足掛かりを作った。 ③中世ユダヤ教の民間伝承の研究。特にイエス・キリストやパウロ、中世後期スペインのユダヤ人改宗者などを主題とする伝承を取り上げ、民衆世界独自の歴史観を明らかにした。そこには、キリスト教の文化や価値観に対するユダヤ人の対抗的な意識や、娯楽的な物語としての皮肉やユーモアなども含まれており、中世ユダヤ民衆の心性が表現されていることが明らかとなった。 ④ヘブライ語の十字軍年代記の紹介。11世紀末の十字軍に端を発するライン地方でのユダヤ人共同体への迫害を記録した年代記について、国内で紹介した。今後のさらなる研究のための足掛かりを作った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は海外調査よりも国内での研究発表と論文執筆を重点化し、おおむね計画通りに成果を発表することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
前述の「研究実績の概要」のうち、②については今後海外での研究発表やさらなる論文の発表を続けていく必要がある。④についても、これからさらなる十字軍年代記の読解および関連する研究文献の調査・検討を進めていく。 加えて、2年目の主たる研究テーマとして、さらに以下の2点を加える。 ①12世紀の論争文学の研究:『契約の書』『主の戦い』『勝利の書(古)』。この3点はユダヤ教における対キリスト教論争文学の黎明期の作品としてきわめて重要である。その内容については「研究実績の概要」の①で概観したが、今後さらなる詳細な研究をおこなっていく。 ②中世キリスト教世界のユダヤ哲学:クレスカス『主の光』。中世ユダヤ哲学はイスラーム思想と密接に結びついて展開されたが、14世紀以降はキリスト教世界のスコラ哲学との影響関係が見出せる。その時期の主著としてハスダイ・クレスカスの『主の光』の読解に着手する。
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