2020 Fiscal Year Research-status Report
A Comprehensive Study of the Development of Embryological Discourse in Japanese Buddhism
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19K12962
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Research Institution | Ryukoku University |
Principal Investigator |
亀山 隆彦 龍谷大学, 公私立大学の部局等, 研究員 (10790230)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 日本仏教 / 真言密教 / 胎生学 / 曼荼羅 / 身体論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は前近代の日本仏教、なかでも密教を核とする真言宗と天台宗で複雑に発達した胎生学的教説の実態、歴史・思想的意義を解明することである。平安中期から江戸にかけて、密教の教理と実践を学ぶ多くの僧が、人間の胎生過程に関する詳細な記述を残した。今日、明瞭に語られることは少ないが、これら胎生学的教説は密教の各種実践、悟り、曼荼羅に関する教学論争でも多用され、日本密教思想にとって不可欠の基盤であったと推測される。ただ室町以後は「邪義」、つまり正統密教に対する異端とみなされるようになり、江戸以降、そちらの見解が影響力を大きくしたことから、それ以前の正当な評価も忘却された。 本研究では、以上の傾向を批判し、胎生学的教説の歴史・思想的意義の積極的な評価を試みる。詳しくは①教説と「正統」日本密教思想の関連、②教説が室町後期~江戸時代も影響力を有していた事実を明らかにする。その2020年度の研究実績だが、前年度を踏まえ①②両方の考察を進め、以下の成果を発表した。 ①関連では英語の口頭発表(1回)と講演(2回)、日本語論文(2本)と英語論文(1本)がある。例えば講演“Articulating Inner Dharma”や、論文“The Doctrinal Origins of Embryology in the Shingon School”では、曼荼羅を媒介に人間の胎生と宇宙の運動が連動する、中世密教独自の身体論を明らかにした。 ②関連では、日本語口頭発表(1回)、英語論文(1本)、日本語共著書(1冊)がある。発表「『根吼抄』にみる赤白二渧と「邪見」」と、論文“The Red and White Drops and “Wrong Views” in the Konko sho”では、室町後期の密教僧の胎生学的教説を検討し、それを異端視する勢力はごく一部でしかなかったことを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2020年度までの研究の進捗状況について述べると、研究計画の一部は、おおむね順調に進んでいるが、別のステップでやや遅れが生じている。先に述べた通り、本研究では、①胎生学的教説と「正統」な日本密教の教えが密接に結びつき、②室町後期~江戸時代でも一定の影響力を維持していたことを明らかにすることで、同胎生学的教説の歴史・思想的意義の積極的な評価を試みる。その中でも①の分析に関しては、2019年度中に基礎資料の研究をほぼ終えていたことで、その成果を活用し、特に大きな障害もなく作業を進めることが出来た。 対して②の考察については、2019年度末から2020年度前半にかけて集中的に基礎資料の調査を実施し、2020年度の後半に、その成果を検討・発表する計画を立てていた。しかし、新型コロナウィルス感染の影響で、国内外の大学図書館、博物館、寺院等、資料を保管する施設の多くが、2020年中の研究者の立ち入りと調査を禁止した。そのことで、前述の②に関連する資料の調査を計画通りに進めることが出来なかった。その遅延を挽回し、研究計画を完遂するために、最終的に研究期間の延長を決断した。 ただし、②の基礎資料の調査に関しても、2019年度中に進めていた分があったので、2020年の下半期は、その調査結果を利用して口頭発表(日本語)を一度行い、英語論文を一本発表することが出来た。さらに、その発表と論文を通じて、近世の日本密教と胎生学的教説を総合的に評価するための新たな視座も提示した。その成果に基づき、2021年度の前半に、②に関連する基礎資料の調査をさらに進める予定である。 加えて、2020年度はアメリカ宗教学会に参加し、英語での研究成果発表を予定していた。しかし、こちらも新型コロナウィルス感染の影響で渡米出来なかった。ただ、同宗教学会が、最終的にオンラインで開催されたことにより、成果発表を行うことは出来た。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は2020年度中に終了する予定であったが、先に述べた通り新型コロナウィルス感染の影響で計画進行に遅延が生じた。そして、その遅延を解消し、万全の状態で計画を完遂するために研究期間そのものの延長を決断した。その延長された研究期間である2021年中に何を行うか。詳しい研究の推進方策は、次に述べる通りである。 第一に、感染対策に十分配慮した上で、2020年度中に訪問出来なかった国内の各種施設、大学図書館、博物館、寺院等に赴き、関連資料の基礎調査を進めるつもりである。具体的には、国文学研究資料館、あるいは高野山大学のような宗門系大学図書館に所蔵される近世の写本と刊本類を検討し、その頃の真言密教や天台密教における胎生学的教説の理解、それを取り巻く文脈がどういったものだったか考察する。さらに、胎生学的教説と深く結びつき、その支えとなった様々な「正統」教学の系譜に関しても、中世だけでなく、それ以前の古代仏教僧の思想活動にまで遡及できる可能性があることを議論する。 研究成果の公開に関しては、現時点で、二つの学会での研究発表(日本語)に応募済みである。さらに、その研究発表の内容に基づいて、少なくとも英語論文を一本、日本語論文を一本書き上げる予定である。これら研究発表と論文の狙いだが、日本密教にどういった特質や思想的意義が認められるか、胎生学的教説の視点から考察を試みるつもりである。 また2020年度中、新型コロナウィルス感染防止のため、研究拠点である龍谷大学世界仏教文化研究センターを十分に活用することができなかった。そこで開催できたはずの研究会、シンポジウム等もあったと思われる。そこで2021年度は、同じく感染対策を十分行った上で、世界仏教文化研究センターを積極的に利用し、各種研究会、シンポジウム、ワークショップを開催したいと考えている。
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Causes of Carryover |
2020年度、学会に参加するための交通費と宿泊費、および国内外の大学図書館、博物館、寺院等の施設で研究調査を行うための交通費と宿泊費として、上記の旅費を計上した。具体的には、米国ボストンで開催予定だったアメリカ宗教学会、東京で開催予定だった第71回日本印度学仏教学会学術大会、高野山大学で開催予定だった密教研究会学術大会に参加するための費用、そして東京の国文学研究資料館、和歌山の高野山大学図書館、京都の高山寺等で調査を行うための費用である。しかし、新型コロナウィルス感染の影響で学会はすべてオンラインになり、調査活動も行えなかった。第一に、その未使用の交通費と宿泊費が、次年度使用額となっている。 また、アメリカ宗教学会については、オンライン開催の決定寸前まで渡米の可能性を模索していた。そのための追加の旅費がどれだけ必要かを熟慮し、物品費に関しても、可能な限り使用を控えていた。最終的にその支出も必要なくなったため、その分も次年度使用額となっている。 以上を踏まえ、次年度使用額の使用計画を述べると、第一に旅費の多くは、開館しつつある国内の大学図書館や博物館で調査を行うための交通費と宿泊費、および学会への参加費とする。次に物品費は、前年度中に獲得出来なかった資料の収集費と図書の購入費、さらに調査に加え、オンライン学会への参加をスムーズに行うためのノートパソコンの購入費とするつもりである。
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