2019 Fiscal Year Research-status Report
アイデンティティと「穢れ」:原始キリスト教会形成プロセスにおける「他者」の受容
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19K12963
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Research Institution | Kobe College |
Principal Investigator |
大澤 香 神戸女学院大学, 文学部, 専任講師 (10755424)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | アイデンティティ / 穢れ / 捕囚 |
Outline of Annual Research Achievements |
捕囚後の第二神殿時代における「異邦人の穢れ」概念の形成は、古代イスラエルのアイデンティティの確立と深く関連していたことが考えられる。本研究課題の1年目である2019年度は、研究計画に基づき、初期ユダヤ教に至るまでの「穢れ」概念の変遷を跡付け、分析した。古代オリエントの文献からは、神的世界の清浄性と人間存在に伴う穢れの対照性の認識が窺われる。この古代オリエント以来の人間の穢れの概念が、古代イスラエルのバビロン捕囚を経て、民族の境界付けのために用いられるに至った過程を、ヘブライ語聖書テキストの分析を通して跡付けた。 段階的な形成過程を経ている聖書テキストについて、捕囚前からの伝統と捕囚後の視点を想定しつつ分析を行なった。分析にあたり、穢れのメタファーに注目した。言述に新しい意味を与えると共に、言語に世界経験の新しい領域を開示する力を持っているとの隠喩論の議論を手掛かりに、メタファーの創造的機能に着目し、古代イスラエルの「捕囚」という経験が、この「穢れ」概念の独自の発展に影響を与えたことを明らかにした。すなわち、バビロン捕囚の文脈において、イスラエルの道徳的穢れが、聖所から一時的に遠ざけられる儀礼的穢れの状態にある女性のメタファーによって表現され、更にこの概念が、捕囚後のイスラエルの民族的共同体において、穢れから自らを遠ざけ「聖なる民」となることへの動機付けとして作用したとの経緯を考察した。更にこの「穢れ」概念は、捕囚後のユダヤ教において、エズラ記に窺われる「聖なる種族」として民族の境界付けの方向性と共に、やがて「異邦人の穢れ」概念の形成につながっていったことが考えられる。これらの研究成果をまとめ、若手研究者による古代中近東研究会において、研究発表を行なった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
捕囚後のイスラエルの民族的共同体において、「聖なる種族」として民族の境界付けの方向性と共に、やがて「異邦人の穢れ」概念の形成につながっていったと考えられる「穢れ」概念について、そこに至るまでの段階として、「穢れ」概念の発生以来の変遷を跡付けることが、本研究課題初年度に設定した研究計画であった。その結果として、古代イスラエルの「捕囚」という経験が、この「穢れ」概念の独自の発展に影響を与えたことを明らかにすることができ、予定している計画に基づいて、本研究課題はおおむね順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目である2020年度は、1年目の成果を受けて、初期ユダヤ教における「穢れ」概念について、特に「異邦人」との関連から分析・検討を行なう。第二神殿時代の聖書テキスト、死海写本、そして新約聖書テキストにおける「穢れ」概念を比較分析する。その成果を踏まえて、3年目の異邦人・改宗者の位置付けの分析につなげ、研究の最終成果をまとめる予定である。
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Causes of Carryover |
予定していた書籍の購入を一部次年度購入に予定変更したため。 予定していた書籍は次年度に購入するため、使用計画に大きな変更は生じない。
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