2020 Fiscal Year Research-status Report
アイデンティティと「穢れ」:原始キリスト教会形成プロセスにおける「他者」の受容
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19K12963
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Research Institution | Kobe College |
Principal Investigator |
大澤 香 神戸女学院大学, 文学部, 専任講師 (10755424)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 異邦人の穢れ / 捕囚後イスラエル / 聖なる種 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題2年目である2020年度は、1年目の成果を論文「ヘブライ語聖書における捕囚と穢れのメタファー」として発表した後、初期ユダヤ教(第二神殿時代ユダヤ教)における「穢れ」概念について、特に「異邦人」との関連から分析・検討を行なった。「神聖法集」のテキストが、エズラ記を経て、異邦人の穢れと自らを区別する「聖なる種」としての捕囚後イスラエルの自己理解に影響を与えている経緯を分析した。 「神聖法集」において擬人化される「地」は、神に忠実なモデルエージェントとしてのイスラエルの民の姿と重ねられていることが指摘される。そのような神の業の協働者としての地のイメージを、神の掟に忠実な自然界の描写の伝統においても確認した。そしてその伝統において確認される、神の命令に従順な自然と不従順な人間との対比と、神の命令に従順な自然と神によって選ばれた民との対応関係が、「地を嗣ぐ」選ばれた「義人」の概念と共に、「永遠の植栽」としてのクムラン共同体の自己理解にも影響を与えている可能性を提示した。これらの研究成果をまとめ、論文「地のイメージ的所産と捕囚後イスラエルの自己理解」として発表した。 また更にそのイメージが、聖書の諸テキストやキリスト教に多様な影響を与えたと考えられる例や、キリスト教が独自の宗教アイデンティティを確立する際、キリスト教の外部との境界づけに、ユダヤ教の諸概念を形を変えつつ踏襲した可能性について考察を進め、日本ユダヤ学会関西例会にて研究報告を行なった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題2年目の研究計画として、初期ユダヤ教時代の異民族の穢れ概念とパウロのレトリックの分析を予定していた。初期ユダヤ教に至るまでの「穢れ」概念の変遷を跡付け分析した1年目の成果を受け、今年度は異民族間婚姻の禁止を述べるエズラ記のテキストが、先のテキストをどの様に解釈し、更に後のテキストや捕囚後イスラエルの自己理解に如何なる影響を及ぼしたのかを明らかにした。さらにそのイメージがキリスト教のアイデンティティ形成に及ぼした影響についても、パウロの言葉の分析を中心に、キリスト教独自の内的構造の視点から考察することができた。よって、研究計画に基づき、本研究課題はおおむね順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
3年目である2021年度は、1~2年目の成果を受けて、原始キリスト教における異邦人・改宗者の位置づけの分析を行う。これまでの研究成果に基づきつつ、原始キリスト教が自分たちのアイデンティティを形成していくにあたり、ユダヤ教の諸概念を取り入れながら、如何なる内的根拠をもって「異邦人の穢れ」概念を消化したのかを明らかにし、研究の最終成果としてまとめる予定である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の影響により、予定していた海外での学会・研究会参加や資料調査を行うことができなかった。また国内学会・研究会はZoom開催となったために旅費の支出がなかった。次年度使用額は、旅費や設備備品費として次年度の研究経費として使用する。
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