2021 Fiscal Year Research-status Report
アイデンティティと「穢れ」:原始キリスト教会形成プロセスにおける「他者」の受容
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19K12963
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Research Institution | Kobe College |
Principal Investigator |
大澤 香 神戸女学院大学, 文学部, 准教授 (10755424)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 創造 / 異邦人 / 第二神殿時代ユダヤ教 / 自然法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題3年目である2021年度は、1、2年目の成果を踏まえ、最初期のキリスト教のアイデンティティ形成の「内的構造」を明らかにするという本研究の目的を達成するための段階的考察として、古代イスラエルにおける異邦人をも対象とする普遍的概念としての道徳概念に焦点をあてて考察をおこなった。 ヘブライ語聖書および第二神殿時代ユダヤ教文書において確認される人間と自然界との対比的描写の背後には、知覚可能な現象を通して自然本性を探究する視点との類似点が見られる。知恵の伝統における「神をおそれる」の概念や古代イスラエルにおける「道徳的穢れ」概念は、異邦人をも対象とする普遍的概念である。そこには、宇宙的・普遍的秩序と社会的・道徳的秩序を重ねる認識との共通性を指摘することができる。ただし古代イスラエルにおいて、その普遍性の認識は、「唯一神」「創造神」である神認識のもとで、全被造物の背後にある秩序に神の統治を重ねる視点となっている。この視点のもと、第二神殿時代ユダヤ文学は、自然法議論との対話において、神の創造による自然界/被造世界の秩序が、神の律法にそっているとの認識を展開している。この認識が、後に第二神殿時代ユダヤ教から分岐して成立したキリスト教においても、異邦人受容の基盤となった可能性を指摘するに至った。これらの研究成果を論文「第二神殿時代ユダヤ教の他者受容の基盤としての『創造』」にまとめ、投稿した(2022年6月発行予定)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究課題3年目の研究計画として、原始キリスト教における異邦人・改宗者の位置づけを分析し、原始キリスト教が自分たちのアイデンティティを形成していくにあたり、ユダヤ教の諸概念を取り入れながら、如何なる内的根拠をもって「異邦人の穢れ」概念を消化したのかを明らかにし、研究の最終成果としてまとめることを予定していた。 原始キリスト教が如何なる内的根拠をもって「異邦人の穢れ」概念を消化したのかについては、本年度の普遍律に関する考察によって、「内的構造」の段階的考察を行うことができた。しかし、原始キリスト教における異邦人・改宗者の位置づけについては、考察の過程で、キリスト教が受容した「異邦人」の概念が、古代イスラエル以降、非常に複雑で多様な概念であること、キリスト教における「異邦人の受容」が、単なる経過的事実ではなく、認識の根本的な転換を伴うものであった可能性に遭遇し、「他者」概念そのものの成立を問う必要性が生じた。そのために、本研究の最終成果をまとめることに、少し遅れが生じている。
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Strategy for Future Research Activity |
上述の原始キリスト教形成期における「他者の受容」と恐らく表裏一体の過程としてある「他者」概念そのものの成立については、本研究を発展的に継承する研究「キリスト教形成期における『他者』の実態:共生の地盤としての異邦人」(2022~2025年度)において解明すべく、既に考察を開始している。「他者」概念そのものの成立について、こちらの研究で発展的に継承しつつ、遅れている本研究のまとめを早急におこなっていく。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の影響により、学会参加のための海外渡航がなくなった。国内学会・研究会はZoom開催となったために旅費の支出がなかった。発展的研究と並行して、遅れが生じている本研究のまとめを次年度におこなうため、次年度使用額は、旅費や設備備品費として次年度に使用する。
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