2019 Fiscal Year Research-status Report
「事実」の思想史:18世紀フランス経験主義の再検討
Project/Area Number |
19K12965
|
Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
淵田 仁 一橋大学, 大学院社会学研究科, 特任講師 (00770554)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 啓蒙思想 / 歴史記述 / 事実認識 / 経験論 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は、18世紀フランスにおける事実観としてまず『百科全書』項目「事実」の読解をおこなった。科学的・客観的な認識の意味合いで我々が用いる「事実」という発想を18世紀の科学観の進歩にその源泉を見出す考えは根強いが、当時の用語を検討すると、科学の領域だけでは捉えられない側面が多く存在することがわかった。とりわけ、神学上の論争(奇蹟論)を巡って事実の成立要件に関する認識論上の問題が重要であることが確認できた。ディドロ、ルソーの議論のみならず、彼らフィロゾーフたちに反対陣営を展開したニコラ・ベルジエの『神学辞典』、『理神論そのものにとって反駁される理神論』といった護教論的作品も分析対象に含めることで事実を巡る論争空間の再構築に努めた。議論の最大の焦点は事実を目撃した証人の信念形成の確実性である。重要な点としては、アンチ・フィロゾーフ派である護教論者たちが神学的議論によってではなくフィロゾーフたちが依拠する経験論に基づいて奇蹟論を展開していることを挙げることができる。この点を鑑みると、単に科学vs神学という構図で言説空間を把握することには多大な危険が伴うということがより明確にわかった。 以上の成果は、2019年7月に行われた国際18世紀学会大会(英国・エディンバラ)にて「Est-ce que l’article "FAIT" de Diderot est ordinaire ?」と題する発表で報告した。この報告に基づく論文は2020年度に発表する予定である。また、本研究の成果の一部は『ルソーと方法』(法政大学出版局)として刊行した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
一部初期の計画とは研究の順序が変わった部分もあるが、本質的にはおおむね順調に進展している。ただし、2019年度末に実施しようとしていたフランスでの史料調査や海外研究者との面談は新型コロナウイルス感染症の影響で断念した。これらは翌年度以降に実施する予定である。 事実概念を巡る思想的問題を再構成するには、単に語用論を議論するだけでは十分ではない。ゆえに、初年度では深く検討できなかったコンディヤックの『感覚論』『体系論』、ビュフォンらの自然史周辺の議論も注意深く分析し、隣接諸概念と事実概念の関係性を明らかにする必要がある。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究代表者も研究分担者として参加している「『百科全書』の編集史的研究──知の生成と転位」(17H02321、研究代表者:逸見竜生)の一部成果を使って本研究課題を遂行しようと考えている。具体的には、『百科全書』の典拠データを用いることで、論争空間のなかでどのような書物が参照されているかを把握することが可能となり、本研究で必要な史料をより広範に選定できると考えている。 また、社会学や科学史の領域ではミシェル・フーコー、イアン・ハッキングの議論を踏まえる形で実証科学の歴史に関する研究が多く登場しつつある。こうした先行研究のサーベイにも注力したいと考える。
|
Research Products
(2 results)